第384回市民医学講座:みみ・はな・のどのER (救命救急)

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国立病院機構仙台医療センター
総合感覚器科部長 橋 本  省 先生

とき:平成17年3月17日 午後1時30分
ところ:仙台市急患センター・仙台市医師会館2階ホール

 

 

耳鼻咽喉科は最近は耳鼻咽喉科・頭頸部外科と呼ばれ、 耳・鼻・咽喉頭に加え頭頸部・顔面を扱うことが増えている。 したがって、救急疾患もさまざまなものがあるが、 その重症度・緊急度は疾患によって異なり、一刻を争うものから場合によっては翌日でも対応可能なものまでいろいろある。

 

1. 耳鼻咽喉科領域の代表的救急疾患

主なものは以下の通りであるが、 これ以外のものでも治療に難渋することがある。 下線を引いたものは生命にかかわる可能性のあるものである。

:急性中耳炎、 めまい、 突発性難聴
:鼻出血、 急性副鼻腔炎 (蓄膿症)
咽喉頭 :急性扁桃炎、 急性喉頭蓋炎、 喉頭異物
気管食道 :食道異物、 気道異物
頭頸部 深頸部膿瘍、 顔面神経麻痺

 

 

2. 耳の救急疾患

1) 急性中耳炎

小児に多く、 風邪に続いて発症することが多い。 耳痛で発症するが、 鼓膜が穿孔して耳漏が出ると痛みは軽くなる。夜間に耳痛を訴えるときは鎮痛剤を飲ませて翌朝耳鼻咽喉科を受診する。 治療は通常、 抗生剤を投与するが、 特に欧州では EBM により抗生剤は不要とする意見もある。 しかし、 最近は耐性菌が増加しており、 難治化して入院が必要なこともあるため、本邦では適切な抗生剤の使用が必要かつ重要である。

2) めまい

一口にめまいといってもいろいろな症状があり、 実際には立ちくらみや動悸なども 「めまい」 と表現されることがある。 真のめまいとは、位置覚・運動覚の異常による回転感・動揺感を指す。 通常、 自律神経症状として嘔気・嘔吐を伴うことが多く、 また、難聴や耳閉感を伴うこともある。

めまいを起こす疾患はさまざまであり、 末梢性ではメニエール病、 良性発作性頭位めまい症、 前庭神経炎、 突発性難聴、 中枢性では聴神経腫瘍、 椎骨脳底動脈循環不全、 脳梗塞などが挙げられる。

一般に末梢性めまいは意識障害や他の神経症状を伴うことはなく、 安静で回復することが多いため、救急の場でも補液とメイロン静注などで対応することが多い。 一方、 中枢性のめまいでは強い頭痛、 複視、 舌がもつれる、 声が枯れる、のみ込みにくいなどの神経症状を伴うことが多く、 急いで対応する必要がある。

3) 突発性難聴

突発性難聴は内耳の血流不全などで起きるとされ、 突然、 耳に衝立が立った感じで片耳が聞こえず、 耳閉感も伴うことが多い。 自然に良くなることもあるが、 治療は早いほうが治りが良いとされる。 めまいを伴うことがあるが、 その際は予後が悪いとされる。

 

3. 鼻の救急疾患

1) 鼻出血

子供の鼻出血は鼻中隔前方のキーゼルバッハ部位からのものがほとんどで、 圧迫で容易に止血するためあまり心配はない。大人の出血ではまず慌てないことが大切である。 椅子に座って脱脂綿などを鼻に入れ、 小鼻をつまんで圧迫する。それでも出血が続くときは鼻腔の奥からの出血であり、 急いで耳鼻咽喉科を受診した方がよい。 血圧が高い人では奥からの出血が多く要注意である。稀に腫瘍が原因のことがあるため、 出血点が不明の場合は精査が不可欠である。

2) 急性副鼻腔炎

風邪に続いて起きることが多く、 膿性鼻汁と頬部痛や目の奥の痛みで発症する。 強い頭痛や発熱を伴う場合は脳膿瘍などの頭蓋内合併症を伴っている可能性があり、 注意を要する。

 

4. のどの救急疾患

1) 急性扁桃炎・扁桃周囲膿瘍

強い咽頭痛と高熱があり、 ものがのみ込めず、 含み声となる。 のどをみると、 口蓋扁桃に白い膿栓が付着していることが多い。扁桃周囲膿瘍では一側の扁桃の上外側に膿瘍を形成し、 切開排膿が必要である。 増悪すると、 咽喉頭に浮腫を来し呼吸困難を来すことがある。

2) 急性喉頭蓋炎

喉頭の入り口にある喉頭蓋が腫脹し強い咽頭痛と息苦しさで発症する。 呼吸困難から窒息へと進行が早く、 処置が遅れれば死亡の可能性が大きい重篤な疾患である。 ただちに気管内挿管を試みるが、 不可能な場合は緊急気管切開が必要となる。

3) 喉頭異物

餅などの喉頭異物は窒息の原因となる。 指交差法、 指拭い法といった手技で摘出できることがあるが、 間に合わず死亡することも多い。何よりもまず、 高齢者では餅を小さくするなどの予防策をとることが大切である。欧米で推奨されるハイムリッヒ法は本邦では必ずしも推奨されていない。

 

5. 気管食道の救急疾患

1) 食道異物

子供では貨幣やおもちゃ、 大人では魚骨、 義歯、 PTP (press through pack) が多い。最近は電子内視鏡で摘出することもあるが、 食道壁を損傷する可能性がある場合は硬性鏡が必要である。 魚骨では粘膜下に刺入し、外切開が必要なこともある。

2) 気道異物

子供の豆類、 特にピーナッツが問題である。 ピーナッツは声門を通過して気管・気管支へ入りやすく、 水分を吸って膨張し気道を閉塞しやすい。また、 塩分が気道粘膜を刺激して肉芽が形成され肺炎・無気肺を引き起こす。 摘出は全身麻酔下に硬性内視鏡を用いて行うが、 危険な手術となる。最も大切なのは5歳以下の小児には豆類、 特にピーナッツを決して与えないことである。 大人の場合は、 歯科治療時に歯冠が落下することが多く、また、 銜えていたものをうっかり吸ってしまうこともある。

6. 頭頸部の救急疾患

1) 深頸部膿瘍

異物、 虫歯、 咽頭炎に続発するが、 原因不明のこともある。 頸部全体に発赤、 腫脹、 発熱を来し、嫌気性菌によるガス産生によって皮下気腫が見られることが多い。 治療としては切開排膿および強力な抗生剤治療が不可欠であり、適切な処置が遅れると縦隔炎へと進行し、 生命にかかわることがある。

2) 顔面神経麻痺

緊急の疾患ではないが治療開始が遅れれば治癒しにくくなるため、 準救急疾患との位置づけとした。 当院では顔面神経麻痺は急患として扱っている。

一般には顔面神経痛と呼ばれることがあるが、 顔面神経には味覚以外の知覚神経は含まれず顔面神経痛とは言わない。 朝、洗面時に気づくことが多いが、 耳痛や味覚障害が先行することもある。 原因不明のものが多くベル麻痺と呼ばれてきたが、最近は単純ヘルペスウイルスによるものが多いことが分かってきた。

通常、 発症後3、 4日目まで進行するが、 不全麻痺であれば予後は良好のことが多い。 高度 (完全) 麻痺に陥ったものでは、適切な治療が行われなければ治癒の確率は約60%で残りは不完全治癒となる。 発症後1週間以内に大量ステロイド療法を行えば良好な治癒率が期待でき、当院の治癒率は約96%である。

自然治癒もあるが、 帯状疱疹ヘルペスに合併したもの (ハント症候群) は予後不良であり、 高度麻痺例は早期に耳鼻咽喉科で入院治療を行うことが望ましい。

 

7. まとめ

耳鼻咽喉科の救急疾患はそう多いものではないが、 生命にかかわるものがあり、 予防と発生後の迅速な対応が必要である。