第394回市民医学講座:狭心症治療の最前線

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仙台オープン病院循環器内科 
副部長 加 藤 敦 先生

 

とき:平成18年1月19日 午後1時30分
ところ:仙台市急患センター・仙台市医師会館2階ホール

 

 

 

-最近20年の歩みと今後の展望-

 

1977年グリュンツィッヒにより、 世界で初めて経皮的冠動脈形成術 (Percutaneous Transluminal Coronary Angiplasty:PTCA) が施行された。 この一見乱暴な手技は瞬く間に世界中に広がり、日本では1981年10月に小倉記念病院で開始された。 当院でも1986年12月から開始し、 4000例を超す症例を経験している。 PTCAを中心に最近の狭心症の診断および治療法について述べる。

1. 狭心症の診断

心電図、運動負荷心電図などは昔から重要な検査法であった。 心臓超音波はいつでもどこでもできる検査となっている。冠動脈造影がGoldenStandardであるのは変わりないが、体軸方向に多数の検出器列を有するCTが登場し心臓の3次元画像の作成が可能となった。 最近64列 MultiSlice CT (MSCTまたはMDCT) が普及してきた。 これを使うと息止めの時間が十数秒程度で撮影が終わり、心電図同期にてきれいな冠動脈の描出ができる。 心拍が早い時や洞調律でない時は難しいとか、 放射線被ばくや造影剤使用の問題はあるが、非観血的に冠動脈造影をみることができるようになった。 またCTと同様にMRIでも冠動脈を描出できる。 放射線被ばくが無い点は優れているが、きれいな像を得るにはまだ経験と時間が必要である。

 

2. 狭心症の治療

A. 薬物療法
冠動脈インターベンションが全盛の現在でも昔ながらの薬物療法は重要である。 硝酸薬、 カルシウム拮抗薬、 β遮断薬などが使用されてきたが別な観点から重要な薬がある。

1) 抗血小板薬:急性冠症候群の原因である血栓形成を予防するため、 少量アスピリンが使用される。 消化管潰瘍などの禁忌がなければ必須と考えられる。

2) HMG CoA還元酵素阻害薬:コレステロールを減少させることにより、 心事故を減少させることが報告されている。

B. 冠インターベンション (Percutaneous Coronary Intervention:PCI)
以前PTCAと呼ばれた治療法は、 新たな道具が開発され、 いまはPCIと呼ばれるようになった。 日本だけで年間15万人以上が治療を受けている。

①バルーンによるPTCA
最初はバルーンにて冠動脈の狭窄部を拡張するのみであった。 しかしながら1) 再狭窄が多い、 2) 急性冠閉塞がある、 3)石灰化病変には歯が立たない、 4) 十分拡張することができない、 などPTCAの限界も多数存在し、 新しい道具 (New Device)の開発が進められた。

②New Device
a)アテローム除去
血管内にアテロームが大量にあると拡張不十分となったり、 拡張後すぐもとに戻ってしまうことがあり、 アテロームを除去する方法が考案された。

1) DCA (Directional Coronary Atherectomy)
血管内腔のアテロームを特殊なカッターで削ってしまう方法である。

2) PTCRA (Percutaneous Transluminal Coronary Rotational Ablation) 
先端にダイヤモンドの粉がついた金属球を高速に回転させ、 石灰沈着をおこしたアテロームを粉々にして血管末梢までとばしてしまう方法で、 一般的にロタブレーターと呼ばれる。

3) Laser
レーザーにてアテロームを蒸散させてしまう方法も試みられた。

b) 内腔確保
ステントは網目状に拡張する金属のチューブで、 狭窄部でステントの乗ったバルーンを拡張させると血管内腔に張り付き、 血管拡張を保持する。急性冠閉塞を予防し、 再狭窄率を1~2割減少させたため、 ステント全盛時代となった。 しかしながらまだ再狭窄率は20%近くあり、その低減が問題であった。

③再狭窄予防
a) 血管内放射線治療
冠動脈内にて放射線を照射し血管内膜の増殖を抑制しようとしたものだが、 設備が重装備であり、 日本では一般臨床に供されていない。

b) 薬剤溶出ステント
ステントに免疫抑制剤、 細胞増殖抑制剤などの薬を含んだコーティングを行ったものであり現在世界を席巻している。 日本では免疫抑制剤シロリムスを含んだ薬剤溶出ステントのみ発売され、 再狭窄率数%という劇的な結果を得ている。

c) 冠動脈バイパス手術 (CABG)
現在でも狭心症治療として重要な位置を占めるが詳細は他に譲る。

 

3. 今後の展望

虚血を改善するのが難しい重症狭心症が存在する。 最近それらに対して血管新生療法がいろいろ試みられている。

A. 血管新生因子投与
蛋白の直接投与あるいは遺伝子導入することにより、 血管新生を促す。

B. 細胞移植
骨髄あるいは末梢血由来の幹細胞を注入し血管成長因子の産生や血管新生を促す。

C. レーザーを用いた心筋血管再建術 (TMLR)
心筋を貫通するチャンネルを作成し血管新生を促す。

D. 低出力衝撃波
東北大学病院循環器内科では2005年11月より、 重症狭心症例に対する体外衝撃波治療の臨床試験を開始した。尿路結石破砕治療に用いられる衝撃波の10%ほどの低出力の衝撃波を選択的に心筋虚血部に照射し、 毛細血管の増加を促す。 今後の発展が期待される。

 

今後これまでと同様に狭心症の治療は進歩し、 現在の治療法では十分な改善がみられない重症狭心症に対しても新たな方法が開発されることを確信している。