第401回市民医学講座:高齢者のメンタルヘルス

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東北大学大学院
医学系研究科精神神経学分野
助教授 平 澤 大 先生

とき:平成18年8月24日 午後1時30分
ところ:仙台市急患センター・仙台市医師会館2階ホール

 

 

人生80-90年になった現代では、 退職後20年あまりの人生をいかに楽しく暮らすかという意味で、高齢者のメンタルヘルスケアは重要視されてきている。

 高齢者のメンタルヘルスの特性としては、 脳の老化や記銘力・認知機能などの精神機能の老化、および慢性身体疾患の合併や心理社会的な環境の変化 (死別・離婚、 退職などのさまざまな喪失体験) が見られるため、認知症やうつ病のリスクが高くなり、 必然的にこれらの精神障害に対するケアが一番大切となる。

認知症とは、 正常に発達した知的機能が持続的に低下し、 記憶・思考・理解・計算・学習能力・言語・判断を含む複数の認知機能障害があるために、社会生活に支障をきたすようになった状態をいい、 脳の萎縮による全般性の認知症であるアルツハイマー型認知症と、脳梗塞・出血によるまだらな認知症である脳血管型認知症の大きく2つに分類される。

 診断としては、改訂長谷川式簡易知能評価スケールを利用した問診と、 頭部CTやMRIなどの脳画像診断を中心に行われ、 せん妄、 うつ病、知的障害と鑑別する必要がある。 さらに単なる老化とは、 置き忘れはあるが、 内容すべてを忘れるわけではない、 食事の内容を忘れるが、食べたこと自体は忘れない、 人の名前は忘れるが、 顔を忘れることはない、 場所や月日は分かる、 判断や計算は分かるなどで鑑別される。

治療としては、 まず、 リハビリテーション療法として、 高血圧・高脂血症・糖尿病にならないような食事や運動療法、 人とのコミュニケーション、読み書き計算、 手足の運動、 音楽療法や絵画療法などが挙げられる。

また、 薬物療法としては、 アルツハイマー型認知症に対しては、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬であるドネベシル、 脳血管性認知症に対しては、 非ステロイド系抗炎症薬であるアスピリンや、脳循環改善薬であるニルバジピンやニセルゴリンが推奨されている。

一方、 うつ病とは、 気分・意欲の障害で、 2週間以上毎日継続して、 少なくとも抑うつ気分か、 興味・喜びの喪失のいずれかがあり、さらに、 疲れやすさ・気力の減退、 精神運動の障害 (制止や焦燥感)、 食欲の減退または増加、 不眠または睡眠過多、 思考力・集中力の低下、無価値観・罪責感、 死への思いを含めた9項目のうち、 5項目以上該当することで診断される。

正常の抑うつ反応とは、 症状の継続期間が短く、症状の該当項目が4項目以下などで鑑別される。 治療としては、 まず、 十分な休養が必要で、 必ず治る病気なので、 重大な決断は避けることや、周りの人はむやみに励まさないことが大切である。

また、 うつ病には、 完璧主義、 几帳面、 自己否定的、他者評価が気になる人がなりやすいので、 そのような性格傾向の人は、 自分のことをよく知ることも必要である。 薬物療法としては、 最近、副作用の少ない選択的セロトニン取り込み阻害薬であるフルボキサミン、 パロキセチンやセルトラリン、またはセロトニンノルエピネフリン取り込み阻害薬のミリナシプランが日常的に使われている。

このように、 高齢者になると年代特有のストレスがかかることは避けられない。 しかし、 いかに自分のストレス状況を理解し、バランスのよい食事、 適度な運動、 良好な睡眠に日常的に心がけるとともに、 過度なストレスには、 気心のあった友人とおしゃべりする、庭いじりをする、 旅行に行くなどのリラクセーションを行って、ストレスとうまく付き合っていき、 人生を全うしていくことが予防になる。さらには、 よりよい夫婦関係、 家族関係、 友人関係や地域のコミュニケーションの中で生活していくことが、 豊かな老後を暮らしていく上で、最も重要なことであろう。