第404回市民医学講座:冬に備えるインフルエンザの話

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独立行政法人国立病院機構仙台医療センター
臨床研究部病因研究室  西 村 秀 一 先生

 

とき:平成18年11月17日(木) 午後1時30分
ところ:仙台市急患センター・仙台市医師会館2階ホール

 

 

講演要旨

インフルエンザを考える上で、つぎの4つにわけて考えてみました。

  • いつものインフルエンザ
  • 鳥のインフルエンザ
  • (ヒトにとって)新型インフルエンザ
  • パンデミック(大流行)インフルエンザ

 

1.いつものインフルエンザについて

 

いつものインフルエンザについて、質問を用意してみました。

  • インフルエンザって、どんな病気なの?
  • インフルエンザは、どうやって広がっていくの?
  • 「インフルエンザ」と「かぜ」とは、どうちがうの?
  • 「インフルエンザはカゼじゃない!」というけど、じゃあ、どんなふうに違うの?
  • どんなときにインフルエンザを疑えばいいの?

まずは、流行があるかないか、近くにインフルエンザにかかった人がいないかを確認します。

お医者さんに行ったら、どんなふうにして診断されるの?

 

まずは、症状と流行や周囲の人たちの様子を調査し、その他の考えられる病気を除外します。場合によっては診断キットを用いることもあります。

・キットを用いたインフルエンザ診断の注意点

  インフルエンザでも、場合によっては結果が陰性にでることがあること。
  結果が陰性でも、インフルエンザである場合があること。
  ただし、陽性はほぼ間違いなくインフルエンザです。

 

どんな治療がおこなわれるの?

基本は、体力保持! そのために、安静、睡眠、休養、無理をしない。禁酒、禁煙、水分補給、対症療法(解熱鎮痛剤)と抗インフルエンザ薬を用います。

細菌の二次感染が疑われるときに、抗菌薬投与します。

 

抗インフルエンザ薬について教えて!

抗ウイルス薬について
シンメトレル(M2イオンチャンネル阻害薬):ただしA型インフルエンザに対してのみ有効。
タミフル・リレンザ(NA酵素阻害薬):A型とB型インフルエンザに有効。

お薬を飲む上での注意点は?

 

・抗インフルエンザ薬の適応
シンメトレル:  A型インフルエンザ。成人の治療・予防。
ザナミビル:  AおよびB型インフルエンザ。成人の治療。
タミフル:  AおよびB型インフルエンザ。1歳以上の小児および成人の治療。13歳以上のハイリスク

疾患患者の同居者が感染した場合の予防。

 

・抗インフルエンザ薬使用上の注意
効果が証明されているのは、発症(発熱開始)後、48時間以内の投与のとき。つまり早目の治療が大事ということです。

 

・副作用について
タミフル:主に腹痛、下痢、吐き気。昨年冬の死亡例疑い症例について

現時点でタミフルとの因果関係が明らかなものはありませんでした。一般診療でのタミフルの使用については、従来通り投与の適応や症状の経過観察等への注意が必要ですが、現時点では改めて注意勧告などを行う状況ではありません。(日本小児科学会)

シンメトレル:主に頭痛、不眠、倦怠、ときに幻覚。

 

・小児に対する解熱剤についての注意
脳症となった場合に、統計上死亡率が上がるとされるお薬があります。脳症になった場合のことを考えて、そういった薬は小児のインフルエンザでは使用すべきでないとされています。そういった薬以外にも、小児のインフルエンザでは使わないようにとされているお薬があります。

お医者さんにかかっている場合は、お医者さんの処方したお薬を指示どおりに飲ませましょう。また、市販のお薬を使う場合には、薬剤師さんに相談しましょう。以前に別の病気で使ったお薬をインフルエンザで使ったり、大人が使ったお薬をそのまま量を減らしてお子さんに使うというような使い方は、専門家の許可がない限りやめましょう。素人判断は危険です。

かからないためには、どうすればいいの?
絶対確実な方法はあるのでしょうか? 

大事なこと:

感染と発病は違うということです。普通の社会生活をしている限り、インフルエンザの流行期にインフルエンザウイルスに暴露し、感染することは避けられません。ただし、普通でない生活の人びとは防げますし、防がねばならない場合が多くあります。一般的に感染を受けないためには、流行期にむやみに人ごみに行かない、頻繁にうがいを行う、患者に近づかない、マスク(ただし過信は禁物)を着用することが大切です。

感染のリスク:  

①至近距離での直接対面  ②閉鎖空間

咳エチケット:

咳やくしゃみがあるとき、咳やくしゃみが出そうになったとき、ハンカチで口と鼻を被いましょう。インフルエンザにかかった人はマスクをしましょう。

 

それよりも、感染しても発病しない、あるいは発病しても軽くてすむための「からだづくり」や「体調管理」が大切です。大事なことは免疫力を高めておくことです。

 

体調管理:

栄養、睡眠、休養。

インフルエンザ発症の誘因:

偏食・過度のダイエット、過労、睡眠不足、喫煙、過度の飲酒、運動不足

 

からだづくり:

日ごろから運動でからだを鍛える。明るい生活をこころがける。インフルエンザワクチンを接種する。

 

インフルエンザワクチンについて教えて!

・インフルエンザワクチンの考え方
死亡阻止・重症化防止・発病阻止あるいは軽くすます。
周囲の人を守る:基礎疾患を持つ人びと、高齢者、妊婦、乳幼児等のハイリスクの人びとを守る。

・ワクチン接種対象者について
予防接種法法定接種対象:
65歳以上、60歳以上65歳未満で心臓、腎臓もしくは呼吸機能あるいはHIVによる免疫機能障害者。

接種が望ましい人たち:
すべての年齢で、呼吸器、循環器、代謝系等に慢性の基礎疾患をもつ人たち。上記の人たちと同居する家族患者さんに接する医療従事者。高齢者に接する老人施設の介護者・従業員。個人的都合で接種を望む人たちなどです。

・接種時期
10月下旬~12月中旬(できれば11月上旬ころまでが望ましい)に接種を終えること。13歳未満では、1~4週間の間隔で2回接種、13歳以上は1回の接種で可。
接種が可能かどうかは、医師の判断を仰いでください。

副反応:

主なものは、接種局所が赤く腫れて痛むといったこと(2~3日で消える)。重大なものは(ショック症状等)ごくまれですが、出るときはおもに接種後30分以内に現れます。

 

ワクチンをしたのにインフルエンザにかかってしまった。どうしてくれるの!?

 

インフルエンザワクチンの考え方の上での問題点:評価法・誤解
ワクチンの有効率の考え方
例えば「70%有効とは?」
読み方:相対危険を7割減らす

インフルエンザワクチン  =  重症化阻止と発症
      阻止効果
   ≠  感染阻止効果
重症化限界の相対的上昇と発症限界の相対的上昇

 

 

 

まとめ

インフルエンザにかからないように、日ごろから健康な生活を心がけましょう。必要な人は、ワクチンを受けておきましょう。
かかってしまったら……
 安静にして、水分の補給を忘れず、他人にうつさないよう注意しましょう。かかった人がマスクをするのは効果があります。注意すべきは乳幼児の中耳炎、子どもの脳症。慢性疾患を持っている人たちは、それぞれの抱えている病気の悪化です。高齢者は、肺炎、気管支炎、呼吸不全、心不全などです。このようなことが心配な人は、医師の診断を受けて、早めに治療しましょう。

 

2.鳥のインフルエンザ・(ヒトにとって)新型インフルエンザ・パンデミック(大流行)

 

新型インフルエンザが出現するとパンデミックとなる可能性が大。

パンデミックとは?

 

全世界の人々がかかる感染症の世界同時多発の大流行 
1918年インフルエンザパンデミック:
米国フィラデルフィア市におけるインフルエンザ
死亡者数(週)10月13日~19日 4,597人
日本(人口約5,500万人)
罹患者約2,530万人、約39万人がインフルエンザないし肺炎で死亡。
宮城県第1波:大正7年、県民の約40%罹患、死者数約3,200人

新型インフルエンザは、医療だけでない、福祉・社会機能全般にわたる危機。自治体全体を巻き込んだ総力戦です。

パンデミックではどこもみな被害をうけるので、外からの助けは期待できません。自分たちのところは自分たちが守るしかないのです。

対策のキーワード:地域力 行政・医療関係者・市民の三者協働