第405回市民医学講座:脳卒中の予防と外科的治療

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国立病院機構仙台医療センター
脳卒中センター脳神経外科
西 野 晶 子 先生

 

とき:平成18年12月21日(木)午後1時30分
ところ:仙台市急患センター・仙台市医師会館2階ホール

 

脳卒中とは、脳の血管に原因があって、急激に神経症状が出現する疾患です。大きく3種類に分類されます。

脳動脈の閉塞や狭窄により神経細胞の壊死をきたす脳梗塞、脳実質内で小さな血管が破綻して生じる脳出血、そして脳の比較的太い血管にできる動脈瘤という瘤が破裂して、主に脳の表面全体に出血するくも膜下出血の3種類です。

脳卒中患者の発症率はいまだに増加傾向にあり、いまだに日本人の死因の上位を占める疾患です。発症率を地域別でみると、東北地方はそれ以南に比して高い傾向にあり、予防に関する注意が必要といえます。今回は脳卒中を予防するための日常生活の注意点と、特殊な場合ですが外科治療による脳卒中の予防、そして若年発症脳卒中の主な原因の1つである脳血管解離について紹介します。

1.日常生活での脳卒中の予防

脳卒中を起こしやすい素因、すなわち、危険因子としては、高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙、飲酒、肥満などがあります。近年よく耳にする”メタボリックシンドローム”という言葉はこれらの危険因子の重なった状態です。脳卒中を予防するためにはこうした危険因子をうまくコントロールしていく必要があるのです。まず、血圧をコントロールする第一歩は自分の血圧を把握することです。

そのためには自宅での安静時血圧を朝と夜測定し、自分の血圧とその変動パターンを把握するのが理想的といえます。収縮期135以上、拡張期90以上だと、定義上は高血圧に入りますが、軽症高血圧の場合はいきなり薬物療法に頼るよりも、食事やその他の危険因子をコントロールすることにより、改善する場合が多く見られます。

次に糖尿病や高脂血症の予防はバランスの良い食事と適度な運動が基本です。食物は、炭水化物、たんぱく質、油脂、ミネラル、ビタミンといった栄養素に分かれますが、1日でこれらすべての項目からまんべん無く摂取することが大切です。

具体的には炭水化物や油脂を控えめにし、摂取する食品の種類を多くするのがコツでしょう。また、既成のインスタント食品は比較的カロリーや塩分の多いものがあるので、成分表示を意識して確認して下さい。運動に関しては無理なく長く続けられるものを、休養日を設けながら行うのが良いでしょう。飲酒は少量(一日1合未満くらい)なら問題ありませんが、喫煙は明らかに脳卒中発症率を上昇させます。

そして、日常の健康管理については、なんでも相談しやすい、かかりつけ医を決めておき、普段の血圧や体重などを記録して受診時に確認してもらうのが良いでしょう。

 

2.脳卒中予防の外科治療

脳卒中の予防はこのような生活習慣に関する注意が第一です。一旦脳卒中になってしまった方の再発予防については、脳梗塞の場合はいわゆる血液をさらさらにするタイプの薬による内服予防が一般的ですが、特殊な場合では外科治療が選択されます。

代表は頸部内頸動脈狭窄例です。内頸動脈は脳を環流する最も太い血管ですが、頸部で動脈硬化をおこしやすく、狭窄や閉塞をきたすことがあり、脳梗塞の主要な原因の1つとなっています。欧米での研究ですが、一旦脳梗塞を引き起こした場合、75%以上の狭窄例では薬物療法のみでは脳梗塞の再発を予防しきれませんでした。このような例では外科治療により動脈硬化巣を摘出し、血管の狭窄を取り除きます。

また脳梗塞を引き起こしていなくても同様の手術をしたほうが良い場合もあります。ただし、患者さんの体力に問題がある場合は、ステントという管で血管を押し広げる血管内治療を考慮しています。

もう一つの外科治療の代表例は脳動脈瘤に対するものです。最近の脳ドックの普及により、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤が発症する前に発見される機会が増えてきました。これをただちに治療する必要があるかどうかは、非常に難しい問題です。

当院では動脈瘤が比較的大きい、または形がいびつである、経過観察中に大きくなってきた、ご本人やご家族にくも膜下出血の既往がある等の場合、ご本人と相談の上、治療を行うことがあります。

逆に、動脈瘤が小さい、形がおとなしい、既往歴や家族歴が無いなどの場合は、MRIにより、慎重に経過を見ることとしています。外科治療では動脈瘤の根元をクリップではさんで、血流が瘤内に流れこまないようにして出血を予防します。多くの場合、2.5時間~4時間くらいの手術で、入院は約2週間のコースとしています。ただし動脈瘤の部位によっては外科手術に向かない場合もあり、そうした場合は動脈瘤の内腔をコイルで充填して血栓化する血管内手術を行います。

どういった方法で治療するにしても、また経過を見るにしても、ご本人とよく相談して決めていくことが必要だと考えています。

 

3.脳血管解離

20歳台、30歳台という若年者でも脳卒中を発症する場合が稀にありますが、その原因の一つとして近年注目を集めている疾患に脳血管解離があります。これは脳血管の血管壁が、壁内で裂けて解離を生じるものです。

これにより、血管の内腔が狭窄すると脳梗塞を発症する場合があり、解離が血管外膜を突き破るとくも膜下出血を引き起こします。

症状が進行あるいは急変する場合もあるので、早期に診断する必要があります。症状は軽症から重症まで様々ですが、発症時に頭痛、後頸部痛を伴うことが多いのが特徴です。いつもとは異なる頭痛を感じ、それが続く場合は医療機関への受診をお勧めします。

脳血管解離の原因はまだはっきりしていませんが、当院の分析では脳血管解離で入院となった方には高血圧を有する場合が多く見られました。特に、若年者の軽症高血圧は放置されやすい傾向にあり、注意が必要と考えています。