第408回市民医学講座:夏が来る前の水虫対策 -その予防と治療-

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皮膚科コスモスクリニック
院長  今泉  勤先生

とき:平成19年3月15日午後1時30分
ところ:仙台市医師会館2階ホール

 

 

 

はじめに

水虫(足白癬・爪白癬)は非常にポピュラーな疾患で、もしかすると眼科の近視に次ぐ有病率の高い疾患ではないでしょうか。今回は春・夏に水虫が活動を始める前に予防と治療についての話をしたいと思います。

1. 水虫とは何か?

そもそも水虫とは何でしょう?既にご存じの方も多いと思いますが、水虫とは皮膚糸状菌(白癬菌)という真菌(カビ)の仲間が皮膚の角質層に感染し、増殖している状態です。皮膚は表面から順に角質層・表皮・真皮・皮下組織という構造を持っていますが、白癬菌は、この最も外側の角質層という部分に感染します。ですから白癬菌は基本的に角質層のない口腔・鼻腔・消化管などの粘膜や内臓・深部組織に感染することは通常ありません。

ただし、毛包には角質層がありますから、毛穴に感染していくことはあります。糸状菌は通常の寄生環境から、好人性真菌・好獣性真菌・好土壌性真菌という分類の仕方がありますが、水虫・タムシの原因菌として問題になるもののほとんどが好人性真菌と好獣性真菌です。好人性真菌はTrichophytonrubrum, Trichophyton mentagrophytesなどに代表されるヒト→ヒトと感染を広げていく菌で、通常の水虫・タムシの原因菌がこれにあたります。

好獣性真菌は通常犬・猫などの動物に寄生していて、ときにヒトに感染して症状を起こすもので、Microsporum canisがその代表です。好獣性真菌による白癬は、足白癬となることはほとんどなく、動物を愛玩するときに触れる上肢・頸部・顔面・体幹に体部白癬として発症します。その場合に、局所の炎症反応が強く、強いかゆみ・発赤を伴うことが多いです。

 

2. 水虫(白癬)の症状

足白癬の症状は水疱・落屑が主体で、ときに角質増成を見るタイプもあります。昔から市販の水虫薬の広告などで「水虫はかゆい」という観念が一般に流布しておりますが、足白癬のほとんどの症例はかゆみを訴えないか、あってもごくわずかです。しかし、時々見られる小児の足白癬では、赤みを帯びてかゆみを訴えることがしばしばあり、接触皮膚炎かと見まがうばかりの炎症所見を呈することが少なからずあります。

これは小児の足底皮膚の角質層が大人のそれよりも薄いということが関与しているのかも耳鳴による苦痛を軽減できる。しれません。

白癬菌が体感四肢・陰部などに感染して「ゼニタムシ」「インキンタムシ」となった場合も、やはり炎症反応が強く、かゆみを伴う紅斑・落屑となり、特有の環状の皮疹を呈することが多いようです。頭部白癬は、落屑・脱毛を呈し、ときに毛包内で断裂した毛がとぐろを巻いて黒点様に見るblack dot ringwormという状態を観察できることがあります。

頭部白癬にステロイド外用剤を誤用したりすると、白癬菌が毛包深くに侵入してケルズス禿瘡という状態になることがあります。

 

3. 水虫の診断

白癬の診断は、白癬菌の感染を証明しないと成り立ちません。その方法は、患部から得た鱗屑を顕微鏡で見る真菌顕微鏡検査と採取した検体を真菌培養に供する方法とがありますが、診察したその場で処方を考える都合上、顕微鏡検査がとても重要になってきます。足に皮疹があると何でも水虫に見てしまうのは人情でありますが、実際に足の皮疹を見た場合の鑑別診断は水虫のほかにもたくさんあります。

鑑別診断としては、汗疱、接触皮膚炎、掌蹠膿疱症、紅色陰癬、蚕食状角質融解症…等々が挙がります。これらの疾患に抗真菌剤を塗布しても当然効果は期待できません(紅色陰癬だけは教科書にイミダゾール系抗真菌剤が効くとありますが…)。ですから顕微鏡検査が重要になるわけです。

 

4. 水虫の疫学

水虫がポピュラーな疾患とはいうものの、では実際にどれくらいの人が水虫に罹患しているのでしょう。つい最近まで一般人口に占める水虫の罹患率についての統計的資料はありませんでしたが、2001年の日本皮膚科学会雑誌に掲載された「Japan Foot Week研究会」の疫学調査によると、本邦においてなんと足白癬は人口の20%、実に2,500万人の患者さんがいると推定され、爪白癬については 1,100万人とされています。

この調査は全国の皮膚科専門医2,000名の協力のもと、ある一定期間に外来受診した患者さんの中から無作為に抽出して足の状態を見せてもらい、さらにアンケートをお願いするという方法で膨大なデータを集め、統計処理を行ったものです。

この調査では各リスク因子に関しての分析も行われ、その結果「加齢」「男性」「高コレステロール血症」「骨・関節の病気」「ゴルフ」「平均気温」「同居家族に真菌症あり」がリスク因子として有意だったそうです。中でもとりわけ「同居家族に真菌症あり」のオッズ比がほかの因子に比べて著しく高かったそうで、「ヒトからヒトへ」という経路が白癬菌の感染にいかに深くかかわっているかを物語っていると思います。

 

5. 水虫の感染経路

では、白癬菌がヒトからヒトへ感染していくその様式・経路はどういったものなのでしょうか?東京医科歯科大学のグループがこの問題について、地道な臨床研究をコツコツと行っており、多数の論文になっています。

医学の発展というのは、こういうプリミティブな研究の積み重ねの基礎があるからこそ可能なのだと思います。彼らはフットプレス法という真菌の培養テクニックを武器にさまざまな研究を行っています。フットプレス法とは、非罹患者の足底全体を巨大な真菌培地に押し付けて白癬菌の培養を試みるという方法で、これを用いて種々の環境下に足を置いたときの白癬菌の付着状況や、さまざまな処理を行ったときの除菌効果や抗真菌外用剤使用の効果などについて調べています。

これらの研究から

 ・足白癬患者の足が床などの上に置かれると、そこに白癬菌が散布され、その上に
  非罹患者の足を置くと、その足に菌が付着する。

 ・プールや共同浴場などの裸足になる施設を利用後に白癬菌が高率に付着する。

 ・男性用施設を利用した方が白癬菌の付着が多い。・白癬患者家庭内を歩行すると
  患者と同じ種類の白癬菌が付着する。

 ・白癬菌が足に付着しても発病はまれで、付着した菌はタオルで拭いたり、石けんで
  洗ったり、裸足で1時間ほど放置することにより減少・消失する。などのことが分かっ
  ています。

 

6. 水虫の予防法

それでは水虫を予防するためにわれわれはどのようなことができるのか?それを考えるためには白癬菌が感染する過程のどのフェーズをブロックするかということを考慮して、それぞれのフェーズに対応した予防法を考える必要がありそうです。具体的には、

 ① 環境中の白癬菌を除菌する

 ② 環境中の白癬菌の足への付着を防ぐ

 ③ 感染する前に、足に付着した白癬菌を脱落させる。

 ④ 外用抗真菌剤の予防的使用(保険適応外)

などが考えられます。①については前述のグループが各種材質における白癬菌の付着と除菌効果について検討しています。その内容は、板・畳・コンクリートの床・スリッパ・座布団・じゅうたん・バスタオルなどにおける菌の付着と、ぬれタオルで拭くという処置でどれだけ除菌されるかを見たものです。その結果、ぬれタオルで拭くだけで、コンクリートの床・畳では菌の残存率は0となり、そのほかの材質でも著明な減少が見られています。

他の実験では足拭きマットが洗濯で除菌されたり、市販の抗菌スプレー使用やアイロンがけでかなりの除菌効果を期待できることも証明されています。ただし、せっかく環境中の白癬菌を取り除いても、患者さんから菌がばらまかれているのでは、すぐに同じ環境に戻ると考えられます。従って、家庭であれば構成員の水虫治療が環境中の白癬菌を減らすためには重要な課題となります。

②については、可能であれば家庭外で裸足になる機会を減らす工夫をすることだと思いますが、旅館・公衆浴場・スポーツ施設など、裸足にならざるを得ない施設を利用する際にはある程度仕方がないと考えられますので、この場合は次の③「感染する前に、足に付着した白癬菌を脱落させる」という項目が重要になってきます。足に付着した菌は床などと同じように、ぬれタオルで拭いたり、石けんで洗ったり、裸足で1時間放置することにより減少・消失することが分かっています。要するに白癬菌といっても感染前はゴミ・ほこりと同じようなものですから、足に付着しても簡単な方法で除去できるわけです。足に付着した菌が角質層に感染するのに要する時間は、通常24時間以上、角質に傷があると12時間といわれています。

ですから通常は、足に白癬菌が付着しても、1日1回入浴してきちんと足を洗っていれば、そうそう感染などは起こさないわけです。ところが仕事で徹夜になったり、帰宅後に疲れて入浴できずにベッドに倒れこんで寝てしまうというようなことがしばしばあると感染の機会は増えるわけです。どうしても入浴できない事情があれば、足浴で足を丹念に洗ったり、ぬれタオルで拭くだけでも感染予防はできると考えられます。

④の抗真菌剤の予防的使用については、保険適応外なので市販薬を上手に使用するということになるでしょう。

 

7. 水虫の治療(足白癬)

現在、水虫用の外用剤は、医家向け市販薬ともに多数発売されており、特に市販薬はおびただしい種類の外用剤が市場に出回って玉石混交の状態といえます。これらの外用剤にはつい最近までわれわれが処方していた薬剤のスイッチOTCもありますが、ずいぶん古い成分の薬や、止痒剤や局所麻酔剤などの成分を含有するものがあり、効果が不十分だったり、主成分以外の成分で接触皮膚炎を生じることもあるようです。

スイッチOTCに関してはもちろん効果が期待できますが、市販の外用剤を使用するケースというのは、確定診断なしで患者さんが自分の判断で行う場合がほとんどですから、効果が見られなかったり、接触皮膚炎を生じて皮膚症状が悪化する場合もしばしば経験します。やはり抗真菌外用材は医師の確実な診断のもとに使用するというのが安全・確実です。

水虫の診療を行っていると、長期間外用しているのになかなか治癒しない患者さんや毎年水虫で来院する患者さんに遭遇します。このようなケースでは、症状のあるところにのみ外用していて周囲に播種されている菌に効果が及んでない可能性や、外用剤を塗り始めて2~3週間後症状が軽快した時点で治ったと判断して治療を中断してしまったりしている可能性が考えられます。

以上のことより足白癬の治療のポイントは

 ① 確実な診断

 ② 抗真菌外用剤の広範囲塗布

 ③ 十分な治療期間

といえるのではないでしょうか。

 

8. 水虫の治療(爪白癬)

 

爪白癬は外用剤がほとんど効かないので、治療の基本は内服薬になります。現在、白癬の内服薬は「イトラコナゾール」と「テルビナフィン」の2種類があり、イトラコナゾールはパルス療法といって、1週間内服し、3週間休むというのを3回繰り返します。

テルビナフィンは1日1回1錠内服を半年間続けます。両剤は値段に開きがあり、イトラコナゾールは高価です。近年イトラコナゾールの後発品が各社から発売されましたが、山形大学附属病院薬剤部が発表した論文では、イトラコナゾールの後発品の多くが溶出試験と犬を用いた体内薬物動態比較試験で、先発品とは大きく異なる結果が出て、とても同等品とはいえないと結論しております。

テルビナフィンの後発品に関しては、今のところそのような報告はありません。

水虫はそれ自体で体に大きな害を及ぼすということは極めて少ないのですが、いったん罹患すると自然治癒は極めてまれで、環境中に菌をばらまき他人に感染させる可能性があります。日常生活のちょっとした注意で感染を防げますので、ぜひ実践してみてください。