第414回市民医学講座:高齢者の結核

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結核予防会宮城県支部興生館
所長 手島 建夫 先生

とき:平成19年9月20日午後1時30分
ところ:仙台市医師会館2階ホール

 

 

はじめに

わが国においては昭和25年までは結核が国民病と言われるまでに蔓延し、時に肺炎が結核を超えることがあっても全体としては死因の第1位を占めていた。しかし、結核の治療の進歩に伴い急速に制圧されて、昭和26年からは脳血管疾患、昭和56年から悪性新生物が死因の首位を占めるようになった。肺結核の治療に関して、当初は外科的療法に始まり、その後は抗結核薬による化学療法の進歩と普及が貢献して結核は著しく減少した。

平成11年に結核新規登録患者が一時的に増加し、「結核緊急事態宣言」が発令されることもあったが、その後の7年間は再び減少に転じ、平成17年度には結核新規登録患者数は全国で 28,319人、罹患率は人口10万人対22.2である。とはいえ罹患率に関しては欧米諸国と比較するとまだまだ高値である。

ちなみに仙台市の新規登録患者は平成17年度130人で、罹患率は12.7、結核死亡数は11人で全国的には良好な状態を維持している。

現在全国集計で、70歳以上の高齢者の新規結核登録患者は45%を占め、周囲への感染の危険度が高い結核菌喀痰塗抹陽性患者に関しては48%と高率である。

結核の感染

結核菌は1~4μmの酸に強い抗酸菌である。感染は空気感染で、水分が蒸発した飛沫核の形で空気中に浮遊し、他者に吸入されて感染を引き起こす。会話で1m、咳で1.5m、くしゃみで3m飛散し、空気中にはさらに長時間浮遊している。結核患者が感染源となるのは結核菌を排菌している場合であり、特に喀痰を染色し、顕微鏡で検鏡する結核菌塗抹検査が陽性の場合は注意が必要である。判定としてはガフキー号数が用いられ、塗抹検査陰性をG0、その菌数の増加とともにG1からG10の段階に分類している。

周囲の人への感染は

 感染危険度指数=
  (最大ガフキー号数)×(咳の持続月数)

により判断され、その値が0.1~9.9を重要、10以上を最重要として対策が講じられる。また、接触者は家族や同居者などが最濃厚接触者、学校や職場などで接触が密であった人を濃厚感染者、その他の接触者に分類して結核接触者検診が現在行われている。

結核感染の要因としては患者の排菌量、咳の程度と持続、社会的活動の度合い、環境条件が考慮される。

 

結核の発病

結核菌に200人の人が暴露すると、感染は100人に生じ、その内の5人が一次結核として発病するという。感染して発病しなかった人の95人は結核菌が眠った状態で体内に残り、高齢化や免疫低下により5人が晩期発病となると言われている(図1)。

 

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高齢者の結核の発病様式には

  1)過去に発病して治癒し、その後、高齢化とともに免疫力が低下して発病する内因性発病。

  2)感染により過去に結核に対する免疫が成立したが、発病せずに経過し、高齢に伴いその免
    疫力が低下して新たに感染する再感染発病。

  3)過去の結核に対する免疫が年齢とともに全く消失して、再び結核菌の感染にあい二次的初
    感染発病。

  4)未感染のままで経過し、初めて高齢になり免疫力が低下して生じる初感染発病がある。

結核菌に感染すると、1~2カ月でツベルクリン反応が陽性となり、その後に発病の場合には胸部レントゲン写真に肺結核の陰影が出現する。当初は結核菌の排菌がない状態、いわゆる非開放性結核であるが、病状の進行とともに結核菌を排出する開放性結核となり、周囲への感染の危険が生じてくる。大切なことは結核菌の感染と発病は異なること、また、感染して発病しても排菌がなければ周囲へ感染する危険はないことである(図2)。

 

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結核の診断

結核の診断には胸部レントゲン写真および過去の写真との比較、胸部CT検査が重要である。喀痰検査では結核菌塗抹、培養検査、結核菌PCR検査が重要であり、診断の確定と感染危険度指数の決定に不可欠である。また、感染の有無や発病の判断のためにはツベルクリン反応、最近普及してきたクオンティフェロン検査が重要である。

 

結核の治療

結核治療の目的は患者の救命、治療により社会生活能力の維持、他者への感染予防、結核菌の耐性化の防止である。歴史的にみると予防対策としてBCG接種が一般的に行われるようになったのは昭和23年以後である。結核治療に関しては積極的治療法のない時代には大気、安静、栄養が治療の中心であり、この考えは現在でも通用する基本的な事柄である。

昭和25~35年の時代は肺結核外科療法が主流であったが、昭和27年から結核予防法による「結核医療の基準」が定まり、ストレプトマイシン(SM)、パス(PAS)の化学療法が一般的に実施され、イソニアジド(INH)も追加された。

さらに時とともにカナマイシン(KM)、エタンブトール(EB)など、昭和46年にはリファンピシン(RFP)が正式化学療法として取り入れられた。以前は長期にわたり抗結核薬を服用するのが一般的であったが、平成8年から、INH、RFP、EB (SM)、ピラジナミド(PZE)を用いた6カ月で治療を終了する短期化学療法が標準治療となった。

直接服薬確認療法(DOTS)も服薬を確実にして、多剤耐性結核菌(MDR)や超多剤耐性結核菌(XDR)の出現を抑制する意味で期待できる手法である。

 

高齢者の結核

高齢者の結核の特徴としては、

  1)過去の若い時代の感染率が高く、免疫能の低下により再燃しやすい。

  2)症状が少なく、訴えが少ない。

  3)合併症の症状に隠れて発見が難しい。

  4)副作用のため抗結核薬の使用に制限がある。

  5)治癒しても後遺症を残し、社会復帰が困難な場合がある。

  6)結核に対する偏見があり、社会的に排除され、入院先を見つけるのが難しい。

などが考えられる。免疫力の低下の原因としては糖尿病、がん、抗がん剤治療、じん肺、腎不全(透析)、副腎皮質ホルモンの使用、胃手術の既往などがあげられる。

これらの理由から早期発見のために定期的に胸部レントゲン写真を撮影するほかに、原因不明の長引く「せき」「たん」、微熱、体重減少、食欲低下などの症状に注意し、抗生物質の効かない肺炎などは肺結核を念頭に置く必要がある。

周囲への感染予防対策としては室内の換気、「せき」がある場合はマスクの使用、個室での管理、排菌が止まるまで他者との接触を控える、喀出した「たん」の廃棄に注意することが大切である。

 

おわりに

高齢者の結核は70歳以上に多く、免疫力の低下に伴って発病しやすい状況にある。また、糖尿病、がん、胃切除などの合併症を有することも多く、発病しても症状に乏しく発見が遅れることが多い。毎年の定期胸部レントゲン検査を行うとともに、呼吸器症状に注意し、体力低下を来さないようにして日常生活を送ることが大切である。