第416回市民医学講座:ここまでみえる!内視鏡 ここまで治せる!内視鏡

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仙台医療センター仙台オープン病院消化器内科
副院長 藤田 直孝 先生

とき:平成19年11月22日午後1時30分
ところ:仙台市医師会館2階ホール

 

 

人体の内部を見てみたいという欲求は、人類の歴史上だいぶ以前からあったようで、紀元前 Hippocratesの時代にすでに試みられていたことが記録されている。近年の消化器領域における診療に用いられている内視鏡、すなわち口や鼻、肛門など体外から管を用いてアクセスし、光を誘導して体内を観察する装置は、19世紀初頭に初めて開発された。以後、改良が重ねられ、現在の隆盛をみるに至ったわけであるが、特に近年の進歩には目覚ましいものがある。

本稿では現在の消化器内視鏡の状況について解説してみたい。

Ⅰ.消化器内視鏡の対象臓器

現在、消化器内視鏡は食道、胃をはじめとする上部消化管、大腸(下部消化管)のスクリーニング、精密検査、治療を目的として、広く行われている。近年ではハードウエアの開発が進み、空腸や回腸を含めた全消化管に対し内視鏡的にアプローチすることが可能になった。また、先進施設においては膵や胆道に対しても内視鏡を挿入し、診断、治療が行われるようになっている。

 

Ⅱ.消化器内視鏡の最新技術

上部、下部消化器内視鏡検査では、内視鏡を消化管腔内に挿入し観察することにより、粘膜面の変化を明瞭にとらえることができる。これにより、微小がんや平坦型の早期がんの診断が可能となる。さらに最近では拡大内視鏡、Narrow band imaging(NBI)、自家蛍光内視鏡などの新技術が登場し、診断精度の向上が見られる。拡大内視鏡ではpit patternや微小な粘膜内血管の形態の解析から異型度、深達度の診断が行われ、病理とのよい相関が確認されている。NBIでは、血液中のヘモグロビンに吸収されやすい狭帯域化された波長の光を照射することにより、粘膜表層の毛細血管、粘膜微細模様が強調表示される。このため色調変化の認識が容易となり、拡大観察を併せることにより、がんの診断が可能になる(図1)。

 

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ハード面の進歩で特筆すべきはダブルバルーン小腸鏡とカプセル内視鏡(図2)の登場、さらに内視鏡の細径化が進み経鼻内視鏡が普及してきた点である。前2者が開発されたことにより、全小腸の観察が可能となり、さらに内視鏡治療の可能性が拡大した。経鼻内視鏡は外径5mm程度の内視鏡を使って施行される(図3)。

 

416_3.jpg通常の上部消化管内視鏡検査(EGD, esophagogastroduodenoscopy)においては、スクリーニングの観察を行う場合には、経口的な内視鏡と大きな遜色がないと評価されている。受検する側からすると、検査時の嘔吐反射の誘発が少ない、経静脈性の前投薬を必要とすることが少なく、検査後鎮静剤の効果消失を待つ時間が不要となる(自家用車を運転して来院することが可能になる)、などのメリットがあり、受け入れられてきている。

検査者側からすると、画質、光量、レンズ面のコントロールなど、経口的なEGDとまったく同様とはいかない部分があり、検査には少し多く時間をかける必要がある。さらなる改良が期待される。

 

Ⅲ.内視鏡治療

消化器領域では内視鏡的に治療可能な疾患が増加している。出血例に対する内視鏡的止血術は、内視鏡的治療の中で長い歴史を持っている。局注療法、焼灼療法を中心にさまざまな方法が実施されている。近年、高い評価を得ているのはクリップ(図4)による止血法である。

 

416_4.jpg病変部の血管をクリップにより挟み込んで圧迫止血する方法で、奏功率は極めて高い。

最近のトピックとしては粘膜下層剥離術(ESD、endoscopic submucosal dissection)がある。これまでも粘膜切除術(EMR)により早期がんの一部は内視鏡治療が可能であった。しかし、切除可能な病変の大きさに限界があり、ガイドラインでは2cmまでのものが適応とされていた。この大きさの制約を取り払ったのがESDである。これにより粘膜内病変であれば、大きさの制限なく内視鏡治療で根治に導くことが可能となった(図5)。

 

416_5.jpg一方、胆膵領域でも内視鏡治療のカバーする範囲が拡大している。代表的なものとしては、内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)による胆管結石截石術がある。近年では拡張バルーンを用いて乳頭部の開口を拡張する内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)や、両者を組み合わせた治療法が実施されている。

胆管や膵管の狭窄を呈する例では、ステント(短いドレナージチューブ)を留置する治療が多くの例で奏功する。低侵襲で、急性胆管炎では第一選択の治療法との評価を受けるに至っている。さらに経乳頭的治療が困難な例では、胃や十二指腸などの消化管から超音波内視鏡ガイド下に胆管や膵管を穿刺する方法が確立され、超音波内視鏡ガイド下胆管ドレナージ術(ESBD)(図6)や膵管ドレナージ術が可能となった。経皮経肝的胆管ドレナージ術(PTCD)などの既存の手技と比較し低侵襲でQOLも高く、適応の多くの部分を置き換えることが予想される。

 

 


416_6.jpgまとめ

消化器内視鏡は装置の改良とともに、より低侵襲で安全に行えるようになっている。病変の拾い上げ能のみならず精密診断能も進化している。また、これとあいまってさまざまな疾患が内視鏡的治療で対応可能となってきた。多くの消化器疾患の早期診断、早期治療のために内視鏡検査は不可欠である。高い診断能、処置能を最大限に発揮させることのできる内視鏡医の育成とともに、市民への啓蒙活動を続けることが重要と考える。