第430回市民医学講座:リウマチ、膠原病治療の今、これから

 
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NTT東日本東北病院

院長 佐々木  毅 先生

 

とき:平成21年1月15日(木)午後1時30分

ところ:仙台市医師会・仙台市急患センター

     2階ホール

 

 

リウマチ、膠原病治療の今、これから

 

1.リウマチ、膠原病のあらまし

関節リウマチ(リウマチ)や膠原病は全身の関節や臓器の障害を生じて長く病院での治療を必要とする病気です。図1に40年前と今の両者の経過についての概要を記載してありますが、以前は悲惨でした。リウマチに罹患すると15年後に半数の人は寝たきりになる、膠原病である全身性エリテマトーデス(SLE)の人の多くは腎不全となり助からない人も少なくありませんでした。今はどうでしょう。両者ともに完治、あるいは予防はできませんが、治療の目標は命を助けるのはもちろんですが、それどころか普通の社会生活ができることです。どうしてこのように進歩できたのでしょうか。


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図1

 
 

 

なんといっても病気について科学的に理解できるようになり、これに伴う医療の進歩による貢献が大きいのですが、国が難病と指定し、これらの病気の克服に力をいれてきたことも役立っています。治療法の研究とともに、膠原病の多くは特定疾患として指定され、患者さんの経済的負担が少なくなっています。図2には特定疾患に指定されているわが国、そして宮城県の患者さんの数を示しました。仙台市は宮城県の患者さんの半分以上にあたりますが、結構な数の患者さんが近くにいることがわかります。

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図2

この中で悪性関節リウマチ(MRA)とはリウマチと違い、リウマチに関節外の血管炎症状、すなわち目、神経、肺などに炎症を伴った場合にそう呼ばれます(図3)。MRAは内臓障害が進む事が多く、多量のステロイド剤使用を必要とするのでリウマチとは分けられています。

 

3.jpg 図3

 

2.リウマチの薬

リウマチの治療は①心身の安定 ②薬物療法③人工関節などの手術療法 ④リハビリテーションが基本となります。薬に関して大きな進歩がありました。金製剤などだけであった時代に比べて、近年は図4でのⅠ、さらにⅡが使われ患者さんの予後は著しく改善してきました。リウマチは寝たきりとなることを心配しなくてもよくなったのです。加えてごく最近、リウマチにさらに新しい薬が使えるようになりました。III(図4)にあげた生物学的製剤です。

 


4.jpg図4

MTX(リウマトレックス)は、これだけの使用で関節の状態が良くなる人が多く、活動性リウマチで中心的に使用される薬です。ただ長期的にみた場合にはかなり多くの人で関節破壊への進行を止めることができないことも判明していました。これを止めることができると期待されている薬、これが生物学的製剤です。日本では4、5年前に臨床の場で使えるようになりましたが、素晴らしい効果をあげています。全員に効くというわけではありませんが、それでも日本人では7、8割の人に、特に4割以上の患者さんで病気が治ったと感じるくらいに有効です。ごく最近ではリウマチでもごくはじめの時期から生物学的製剤を使えばリウマチは治ってしまうのではないかと期待され研究が行われています。

といってもいいことばかりではありません。効く薬には副作用にも十分な注意が必要なのです。最大の副作用は薬代が高すぎることだという意見もありますが、幸い日本では保険制度がありますのでなんとかなりそうです。問題は感染症にかかりやすくなり、いったん感染症を発症すると肺炎、敗血症、結核など短期間に重症
となりやすいことです。このために国、学会、製薬会社と共同して検討し、細心の注意を持って治療を行うよう、医療関係者にキャンペーンが行われています。薬の副作用が怖いとしておののく方がいられましょうが薬の副作用が出ても早く気がつき、問題の薬の使用を中止すれば副作用は消えます。主治医とよく相談して治療を受けることが大事です。

 

 3.膠原病の治療

全身性エリテマトーデス(SLE)をはじめとする膠原病の医療も大きく変化しました。以前は膠原病とされると不治の病気とみなされ暗い気持ちになられたでしょう。残念ながら膠原病ではまだ完治できる治療法は見つかっていません。しかし、血液やほかの検査で病気を早く診断することができるようになりました。この時
期は腎臓、心臓、中枢神経などの臓器障害がない、あるいは軽い時期です。必要に応じCT、MRI検査なども駆使し、おのおのの患者さんに適切な治療を始めます。その結果、腎臓障害などがあるとしても最小限にできることが多く、出産をはじめとして通常の社会生活を送ることが当たり前となってきました。もっとも重症と
なる患者さんがいることも確かです。リウマチで効く生物学的製剤がここでも有効であることが知られてきています。図5は難治性のベーチェット病の眼症状に対するその効果を示しています。

 


5.jpg図5

 

4.運動、日常生活での注意が大事

このようにリウマチ、膠原病の人たちの経過は明るくなっています。が、油断はできません。膠原病、リウマチともに原因が不明で、基本的には長く罹患する病気ですから主治医の先生のところで定期的に治療あるいは指導を受けることが必要です。特に最近注目されているのは、リウマチや膠原病の人たちがメタボとなる率が高いということです。これはステロイド剤などの薬のため、さらには関節障害、臓器障害のために体を動かしにくいためです。しかしこれも見直され(図6)、どんな時期でもその人の状態にあった運動を行うことが有効です。運動は皆さんの健康を維持できるということがここでも生きています。

 
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図6