第438回市民医学講座:これだけは知っておきたい救急知識と応急手当て

20.11.26 048.jpg

 

仙台市消防局警防部救急課

主幹兼救急指導係長 

吉川 清志 氏

と き:平成21年9月17日(木)午後1時30分

ところ:仙台市医師会・仙台市急患センター

     2階ホール

 

 

 

これだけは知っておきたい救急知識と応急手当

―救急事故からあなたの大事な人の命を救うために―

仙台市の救急業務実施体制は、昭和38年に法制化されて以来、年々その体制が整備され、平成21年4月1日現在、22隊の救急隊(うち1隊は高度処置救急隊=ドクターカー)を設置しており、救急隊員159名と22台の高規格救急車で救急業務を実施しています。 

仙台市の平成20年中の救急出場件数は、37,512件(対前年1,952件減、対前年比4.9%減)となっています。これは1日平均出場件数が102件、14分に1回の割合で救急隊が出場し、市民27人に1人が利用したことになります。消防局では市民の救命率向上を図るため、市民の方を対象に救命講習を行っています。昨年は2万5千人が受講し、計画を見直した平成16年度から新たに約11万人の受講となっています。

昔、「倒れた人はそのままにしておけ」と言われた時期がありました。脳卒中の悪化を恐れてのことですが、現在はトイレなどの狭い空間で意識を失っている場合には、呼吸することが困難な状態であることが多く、多くの人の協力を得て安静に広い部屋などに移動し、呼吸がしやすい回復体位(横向け)にして救急車の到着
を待つことが大事です。また、脳梗塞症状(片まひ、ろれつが回らないなど)が出たときは迷わず119番して、TPA治療(脳血栓溶解剤治療)を早く受けるために、急いで専門の医療機関に行く必要があります。

子供の熱性けいれんで安易にガーゼなどを口に入れる方がいますが、熱性けいれんで舌をかむことはほとんど無いと言われています。窒息の原因になりますので、スプーンや割りばし、ガーゼなどは口に入れないでください。ハチに刺された後や食事中に急に全身がかゆくなったり、呼吸が苦しくなった場合は、緊急に医療処置が必要なアナフィラキシーショックが疑われるので、迷わず119番への通報を心がけてください。

高齢者の方の入浴や深酒後の入浴は注意が必要です。高齢者の方は特に血圧の低下や、心臓の負担が増して突然死することが多く、予防するためには脱衣所と湯温の温度差を少なくすること、家族がこまめに声をかけることなどが大事です。また、子供の浴槽での事故を防止するためには、浴室の施錠の励行、入浴時はおもちゃなどで遊ばない、洗濯機付近に踏み台などを置かないことが大事です。

やけどの応急手当は第一に水道水で冷やすことが大事です。やけどの進行を止め、痛みの軽減を図るためには15分以上流水で冷やしてください。衣服の上からやけどした場合は、衣服をとらずにそのまま流水をかけてください。頭に軽い打撲を受け、頭の中で徐々に出血して麻痺や認知症状(3週間〜1カ月後)が出る、慢性硬膜下血腫というものがあります。高齢の男性の方に多い傾向があり、受傷後に専門医で早期に受診して継続した検査などを受けると予防することができます。また、高齢の女性の方に多い外傷として、大腿骨頸部骨折や腰椎の圧迫骨
折などがあります。骨粗しょう症のため、ちょっとした尻もちだけでも骨折などを起こすことがあり、そのときは立つことができても翌日立てなくなることがあるので、早め(受傷当日)に医療機関を受診してください。

根元から抜けた歯はコップに牛乳を入れ、その中に歯を入れて歯科医院へ持参してください。歯の根元の組織を保存するためで、条件が良ければ自分の歯が元通りになります。また、切断した指などはビニール袋に入れてしっかりと封をしてください。そして、もうひとつのビニール袋を用意して、そのビニール袋に氷水を入れ、その中に切断した指などが入ったビニール袋を入れて救急隊に渡してください。

食事中に気道に食べ物を詰まらせた場合は、意識(反応)ある1〜2分の間にハムリック法(上腹部を圧迫する)、または背中をたたいて食べた物を少しでも口元の方へ移動させ除去します。意識が無い(反応が無い)状態では直ちに心肺蘇生(人工呼吸・心臓マッサージ)を開始してください。

自宅に有線の加入電話がありながら携帯電話から通報をする方がいます。携帯電話は電波の状態が不安定な場合もあり、確実な通報のために有線の加入電話で119番通報してください。また、高齢者だけの世帯で、一度遠方にいる家族に連絡して、遠方にいる家族から救急を依頼されることもありますが、一刻を争う病態のときは手遅れになる危険もあります。

年間3万人の方が自殺で亡くなっています。平成20年の厚生労働省人口動態統計では、若年者の自殺が目立っています。身体の異常が前面に出て、抑うつ気分などの精神症状が覆い隠されるうつ病のことを、身体疾患の仮面をかぶったうつ病という意味で仮面うつ病と言われ、近年広く用いられるようになりました。食欲不振、著しい体重減少、疲れやすい、頭痛、手足の冷えなどの症状を訴えて診療を受けるものの、医師の側でもうつ病を見逃して胃潰瘍、片頭痛、更年期障害などの病名がつけられるケースもあると言われています。まわりの人間や自身が気付かないまま自殺することもあり注意が必要です。

多くの人が突然死で亡くなっています。また、幼児期から高校生までの年代では、胸部に軽い衝撃を受けただけで心停止状態になる心臓震盪という事故の危険があり、AED(自動体外式除細動器)が有効な場合があります。心肺蘇生法(AED含む)をマスターしましょう。AEDは市内の公的、民間事業所にも多く普及設置されており、仙台市消防局では本年9月9日から、「杜の都ハートエイド」として応急手当協力事業所表示制度を開始して、AEDを設置した事業所に、AED表示とともに応急手当の協力をお願いしています。

最後に救急事故予防や軽減のためには、家庭の危険場所の点検、バランスのとれた食生活の摂取、規則正しい生活の励行、適度な運動の実践、病気を軽視せずホームドクターを持って早め早めの対応、心に余裕を持って夫婦仲良くすること、応急手当は協力者が必要なので、隣近所とは良い関係を保つことなどが大事です。

20.11.26 050.jpg