第447回市民医学講座:こどものアトピー性皮膚炎

おざわ.jpg   東北大学皮膚科

   小澤麻紀 先生

   と き:平成22年6月12日(土)午後1時30分

   ところ:仙台市医師会・仙台市急患センター

        2階ホール

 

 

 

 こどものアトピー性皮膚炎

 ―上手な付き合い方のポイント―

アトピー性皮膚炎は小児には比較的よくみられる疾患で、その原因は遺伝的素因と増悪因子であるといわれています。

素因の一つはアトピー素因、つまりアレルギー反応を起こしやすい体質です。もう一つは皮膚のバリア機能低下です。皮膚には外界の刺激から身体を守り、体内の水を保つ働きがあります。この働きをバリア機能といいますが、アトピー性皮膚炎では、一見よさそうに見える皮膚でもバリア機能が低下していることが知られています。このためにアトピー性皮膚炎の方の皮膚は外からの刺激を受けやすく、かゆみが起きやすくなります。このような素因を持つアトピー性皮膚炎の方に身の回りにあるさまざまな増悪因子が加わることでかゆい皮疹として症状が現れます。増悪因子は一人ひとり異なりますが、一般的にはダニやハウスダスト、ペットの毛、乳児では食物がアレルギー反応の原因となることが多いようです。
また、空気の乾燥、熱すぎるお風呂、チクチクした素材の衣服などはかゆみを起こし、引っかくことによる症状の悪化をもたらします。アトピー性皮膚炎の体質そのものを消すことは今のところできませんが、皮膚をよい状態に保つように薬を正しく使い、増悪因子を減らすよう心掛けることによって自然寛解も期待できます。実際、こどものアトピー性皮膚炎のおよそ半数は4歳ごろまでによくなり、12歳〜13歳ごろには大多数がよくなるといわれています。

薬による治療において重要なことは、薬を正しく使うということです。特に塗り薬は指示された部位に、適切な量を、正しい方法で塗ることがとても大切です。また、症状がよくなってもすぐに治療をやめてしまわずに、保湿剤などを継続して塗ることで皮膚をよい状態に保つことができます。ほかにも、塗り薬だけでは効果が十分でない場合には、抗アレルギー内服薬を併用します。最近は小児に適応のある抗アレルギー薬の種類も多くなってきています。脳内移行性の低い薬剤で小児への適応拡大がされたものもありますので、選択の幅は広がってきています。

身の回りの増悪因子への対策は、薬による治療と同様に非常に重要です。室内を清潔に保ち、適温・適湿の環境にすること、お風呂の温度や体の洗い方、チクチク・ごわごわしない衣服の素材選びがポイントだと思います。最近は保湿効果に優れた入浴剤も市販されていますので上手に使うと治療の助けになります。また、汗をかくとかゆくなるという患者さんも多いようです。汗はもともと天然保湿因子や抗菌ペプチドを含んでおり、皮膚にとってはよい働きをするのですが、汗をかいて時間が経過するとよくないようです。水分が蒸散した後の汗は塩分濃度が高くなり、汚れの原因になりますし、抗菌ペプチドも塩分濃度が高くなると作用しにくくなります。汗をかいたらこまめにシャワーを浴びるのが理想ですが、できないときは冷やしたおしぼりをあてるようにするとよいでしょう。普段の生活では甘い物やスナック菓子、ジュースの摂りすぎに注意してバランスのよい食事を心掛けることが大切です。また、睡眠のリズムが乱れると、体内のホルモンバランスが崩れてアトピー性皮膚炎にもよくないことが知られています。夜寝る前のテレビやゲームは避け、朝起きたら日光を浴びて朝食を摂りましょう。光の刺激と食事の刺激で体のよいリズムが始まります。

次にかゆみ対策です。アトピー性皮膚炎のかゆみは皮膚症状だけが原因ではありません。すでに述べましたように、空気の乾燥や熱いお湯、チクチクする素材の衣服といったいわゆる機械的刺激によってもかゆみは起こりますし、緊張や不安が強いときにもかゆみを感じやすくなるようです。皮膚症状によるかゆみは薬の治療でよくなることが多いのですが、機械的刺激や精神状態の変化によるかゆみは、通常の治療ではあまり効果がありません。かゆみの原因を考え、その対策を講じていくことが大切なのです。

アトピー性皮膚炎の治療は、薬による治療、普段のスキンケア、悪化の原因を考え対処すること、以上の三つが基本です。アトピー性皮膚炎の症状は体調による波もありますので、いろいろなことに気を付けていても実際にはよくなったり少し悪くなったりを繰り返します。悪化したときには誰しも不安になるものですが、不安に駆られて自己判断で治療を中断したりせず、主治医の先生とよく相談し、悪化の原因を考え、基本を守って治療を継続していくことが重要であると考えます。