第448回市民医学講座:ヘリコバクターピロリ菌

ながの.jpg長野内科胃腸科

長野正裕 先生

と き:平成22年7月15日(木)午後1時30分

ところ:仙台市医師会・仙台市急患センター

     2階ホール

 

 

 

 

ヘリコバクター・ピロリとは? ―除菌治療をどうするか―

1.はじめに
最近、ヘリコバクター・ピロリ(以下ピロリ菌)と除菌治療についての報道が目に付きます。一般の方々に正確な知識を幅広くご理解いただくために、市民医学講座の場を借りて講演をさせていただきました。ピロリ菌は、幼少時期に経口で侵入する、といわれておりますが、感染経路などの詳細については、まだ不明な点もあります。除菌が成功すれば、胃がんの発生率を1/3程度に減らせる利点も注目されている要因の一つと思われます。

2.消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)の病態
ピロリ菌が重要な原因の一つとされる胃潰瘍・十二指腸潰瘍を理解いただくために本院の患者さんの内視鏡像を供覧しました。併せて一般的な胃炎の内視鏡像も供覧し、胃潰瘍・十二指腸潰瘍との差をご理解いただきました。また、胃がんのように転移はしませんが、潰瘍底の露出血管からの多量出血でショック状態に陥ったり、穿孔で緊急手術になったりすることがあり、決して侮れない病気であることを理解いただきました。

3.潰瘍サイクルからの離脱
潰瘍は、一度治癒してからでも再発しやすい病気です。初発で内服後、治癒しても維持内服療法を長らく続けなければならなかったり、維持内服療法をやめた途端再発したり、やっかいな病気で、長らく潰瘍患者さんと消化器内科医を悩ませてきました。ピロリ菌の発見により、潰瘍の重要な原因であることが判明し、除菌が
成功すれば潰瘍サイクルから離脱できることになり、多くの患者さんに福音をもたらしました。

4.ピロリ菌の診断法
血液検査・尿検査・便検査で調べる方法から、内視鏡検査で組織を採って調べる方法、さらに呼気テスト(特殊なお薬を飲み、前後の吐く息の中のCO2濃度を測る検査)などがあります。それぞれに長所・短所があり、費用や侵襲度を考えて、それぞれの患者さんに適した選択をすることになります。

5.除菌治療の実際
一次除菌(一回目の除菌治療)は、PPI(酸を強力に抑える薬)と抗生物質2種類(ペニシリン系+マクロライド系)を朝・夕食後に内服します。ともに通常量の2倍量飲んでもらいますので、副作用として下痢・吐き気などがあります。7日間きちんと飲み切っていただくことが大事です。この期間中は禁酒が望ましいです。
飲み終えましたら、一カ月以上空けて再度呼気テストを行い、除菌の判定をします。本院では、78%の成功率で全国的な一次除菌率とほぼ同様の成績です。抗生物質の耐性などの理由で不成功の場合は、二次除菌(2回目の除菌治療)に
移行します。PPIと抗生物質(ペニシリン系+抗トリコモナス薬)を朝・夕食後内服します。二次除菌中は、必ず禁酒が必要です。本院での二次除菌は、ほぼ100%に近い成功率です。

6.除菌の保険適応
従来「胃潰瘍・胃潰瘍瘢痕、十二指腸潰瘍・十二指腸潰瘍瘢痕のみ」が保険適応でしたが平成22年6月から保険適応が拡大し、胃MALT(Mucoca-Associated Lymphoid Tissue)リンパ腫、早期胃がん内視鏡治療後、ITP(特発性血小板減少性紫斑病)にも保険治療ができるようになりました。しかし、2009年度版日本ヘリコバクター学会ガイドラインによれば、「すべてのピロリ菌感染者に対して除菌を勧奨する」、とあり、保険適応とはいまだ乖離がみられます。新聞などでは、自費で除菌治療を行うと2〜4万円と報道されてます。

7.質疑応答
約1時間の講演後、フロアからさまざまな質問がありました。われわれ実地医家に大変参考になりますので、ここに列挙します。

Q1:ピロリ菌陽性が分かれば即除菌するのですか?
A1:年齢、胃がんの家族歴、消化性潰瘍歴、胃粘膜の萎縮度など、さまざまな要因をトータルに考えて除菌の適応有無を考えますので、消化器内科専門医にご相談ください。

Q2:除菌すれば「胃がん検診」は受けなくて良いですか?
A2:ピロリ菌が胃がんのすべての原因ではありません。除菌成功に安心せずに、ぜひ、毎年の胃がん検診は受けてください。

Q3:除菌成功すれば再感染はないのですか?
A3:大人での再感染は、一般的にはありません。可能性として、本当はピロリ菌が消えてないのに除菌判定で陰性になった(偽陰性)可能など、が考えられます。

Q4:除菌成功すれば二度と潰瘍にならないのですか?
A4:ピロリ菌以外にもNSAIDS(ステロイド以外の抗炎症剤)も潰瘍の原因になりえます。整形外科薬、脳梗塞再発予防薬、心筋梗塞再発予防薬、狭心症再発予防薬を飲まれている方は注意しましょう。

おわりに
135名の参加をいただき、いかに潰瘍症で悩まれている患者さんたちが多いのか、とあらためて考えさせられました。今後も適応を慎重に選びながらも、積極的に除菌療法を進めていきたいと思います。