第449回市民医学講座:内視鏡外科手術

市民医学講座徳村先生.jpg

東北労災病院

副院長 徳村弘実 先生

と き:平成22年8月19日(木)午後1時30分

ところ:仙台市医師会・仙台市急患センター

     2階ホール

 

 

 

 内視鏡外科手術の進歩 ―胆石症から胃がんまで―

はじめに
内視鏡外科手術は、主に腹腔鏡下手術と胸腔鏡下手術に2大別されます。腹腔鏡下胆嚢摘出術が本邦で始められてすでに20年経過し、一般の方々にだいぶ認知されるようになりました。開腹手術に比べ腹腔鏡下手術は明らかにメリットが多いことから、世界中で急速に普及していっています。近代外科約200年における大きな進歩として、近年では臓器移植とともに腹腔鏡下手術の開発があげられています。この20年間に内視鏡外科手術は胆石症から胃がんそして大腸がんなど多種の手術に応用されました。しかし、術式によって定着した術式からまだ試行
段階のものまであり、一般の方々が手術を選ぶに当たって混乱を招いている部分もあるかと思います。この辺をも踏まえ本手術の現状と進歩についてお話しします。

日本内視鏡外科学会全国アンケート調査によると内視鏡外科手術は、1990年以来現在まで増加の一途をたどっています。当科では本手術を現在まで5,369例に施行しています。内訳は、胆石症が最も多く3,951例、大腸がんなどの大腸手術640例、胃がん340例、そけいヘルニア272例、急性虫垂炎手術180例などです。ほかに、直腸脱手術、逆流性食道炎手術、胃粘膜下腫瘍切除など、多種多様な手術も行っています。

 

本手術は、腹腔に二酸化炭素で気腹し手術空間を作ります。腹壁に数本トロッカーを留置します。腹腔鏡による映像をテレビモニターで観察しながら、5〜10mm径の手術鉗子を使って胆嚢摘出や胃がん、大腸がんの手術をします。手術の特長は、皮膚創が小さい、腹壁の筋肉を切らない、術中腹腔内の温度と湿度が維持される、そして臓器に近づいて観察できる拡大視が可能なことがあります。したがって実際、出血が少ない、的確な手術ができる、整容的、術後疼痛が少ない、早期歩行が可能、開腹手術でしばしば起きる術後腸管麻痺が少ない、早期経口
摂取、癒着が少ないため腸閉塞になりにくい、などの利点が生まれます。その結果、手術侵襲が小さく早期退院、早期社会復帰が可能になるわけです。術後3カ月も経過すると、開腹手術と違い腹腔鏡下手術の創はほとんど見えなくなります。

 

各種内視鏡外科手術の実際
1)腹腔鏡下胆嚢摘出術胆嚢結石症の90%以上に腹腔鏡下胆嚢摘出術(以下LC)が行われています。一生のうちに10〜20%の人は胆石を作るとされます。胆嚢結石症で痛みの症状があるときは、治療の第一選択はLCであります。しかし、健診などの普及により50〜90%の方は無症状胆石で発見されるようになりました。無症状胆石が将来に症状が発現する可能性は9〜25%といわれます。また胆石は胆嚢がんを合併しやすいと恐れられていましたが、近年その頻度は高くないことがわかりました。特に無症状胆石では胆嚢がんの発がんは極めてまれなことから、無症状胆石は基本的に経過観察でよいことになっています。しかし、無症状胆石でも一度は消化器専門医を受診されてください。

 

LCは、日帰り手術も行われていますが、1〜5日間の術後入院が妥当です。現在、内視鏡外科技術認定医がいる、あるいは多数施行している一般病院では、手技が安定し良好な成績が得られています。しかし、LCの注意点を要約する
と、①開腹移行が1〜3%ほどある。しかし速やかな開腹移行手術は安全で高侵襲にはならない②胆管損傷が0.1〜0.4%程度ある③術後に胆汁漏出が約0.5%ある④胆嚢がんの合併が胆嚢結石症には約0.5%ある⑤一部の症例で総胆管に結石遺残することがある。基本的に内視鏡治療にゆだねる⑥有症状胆石の約10%に急性胆嚢炎が合併します。その治療方針は基本的に、急性胆嚢炎早期の手術が勧められますが、患者のリスクと手術難易度をかんがみて判断されます。

 

2)腹腔鏡下総胆管結石手術
胆嚢結石症の10〜15%に総胆管にも胆石があります。治療は、内視鏡的に胆石を取る治療、開腹手術で1回の手術で胆嚢と総胆管の胆石を摘出する方法、そして腹腔鏡下に一期的に行う方法があります。腹腔鏡下の一期的手術は専門的施設で施行されています。当科でも480例にルーチンに行い、後遺症の少ない良い成績を得ています。小結石のときは経胆嚢管的に切石、大結石では胆管切開術を、それぞれ40%、60%に施行しています。

3)腹腔鏡下大腸手術
解剖学的に腹腔鏡下に切除がしやすい臓器です。しかし、 すべての大腸がんが腹腔鏡下切除でできるわけではなく、多数のリンパ節転移、他臓器へ浸潤、下部の進行直腸がん、大開腹手術既往など除外すべき病態があります。したがって50〜80%は適応となります。大腸がんの腹腔鏡下手術を開腹手術と比較した試験が多々行われ、手術成績は腸管回復が早い、術後入院期間が短い、長期成績で生存率は変わらない、そのほかの後遺症も変わらない、技術的特徴としましては手術の習熟に時間がかかる、直腸がんが難しいが、精細な手術が可能であることがわかっています。最近、施行病院が多くなってきました。

4)腹腔鏡下胃がん手術 
元来、胃がんの多い本邦では検診システムの充実などで早期がんがたくさん見つかります。腹腔鏡下胃がん手術は主にステージ1に限って行われることが多いです。一部の施設でしか軌道に乗って施行されていないのが現状ですが、最近施行する病院が増えています。早期がんといっても、内視鏡的粘膜下層剥離術がふさわしくない症例と粘膜下層がんが適応となります。日本は、この手術では世界をリードしております。超音波凝固切開装置や自動縫合器などの機器を駆使して、残った胃と腸を体内吻合しています。

5)腹腔鏡下逆流性食道炎手術
高度の逆流性食道炎に対して胃の横隔膜側の穹窿部を食道の下端に巻き付ける手術です。成績が良く、今後、施行例が増加するでしょう。

 

6)そのほかの内視鏡外科手術
食道がん、肝がん 、膵腫瘍 、肺がんなどに先進施設では行われ良好な結果が出されています。

 

内視鏡外科手術の今後
内視鏡外科手術は特有の制限された操作で手術が行われるため、外科医は習熟が容易でない、合併症が時に起こるかもしれないなど、問題点も少なくありません。しかし、テクノロジーの進歩によって問題点を解消しようとしています。近い将来、映像のスーパーハイビジョン化や3D映像化、内視鏡手術器具の改良もさらに改善するでしょう。 その中で、新たは手術法が生まれてきました。単孔式腹腔鏡下手術あるいはNOTESという手術です。またロボット手術が臨床に導入されつつあります。ともに臨床研究段階ですが、将来のさらなる発展が期待されています。

他方、現代は病気が早期発見され小型化してきており、内視鏡下手術の役割はますます重大になっています。しかし、肝心の術者ですが、専門的な技術と経験を要することから、学会では内視鏡外科認定制度を設け、技術認定医として手術指導をしてもらっています。一般臨床の現状は多勢に無勢であり、今後、多数の専門医を広く養成する予定です。また、施行病院については、その実績に関しては情報開示によって、手術の内容や実績を調べることが可能になり、患者が医療を選べる時代になりつつあります。

 

おわりに
最後に、皆さんが内視鏡外科手術を受けるときの順序の要点をお話しします。 かかりつけ開業医あるいは病院医師から診断を受け、手術を勧められます。この段階で、かかりつけ医は一番良いと考えられる病院を紹介すると思いますが、自分の要望もお話ししてください。病院外科の紹介は、多くは地域医療連携室という病院の紹介窓口を通して予約され、受診となります。外科受診時は、外科医は丁寧に手術の必要性と手術の内容を説明します。その際は、遠慮しないで、どのような手術か? 手術施行数は? 手術の長所と短所などを詳しく聞いてかまいませ
ん。できれば質問をあらかじめ整理しておくと良いでしょう。ともかく納得されてから手術を決断してください。