仙台市医師会報より」カテゴリーアーカイブ

仙台市医師会報2008.8 No.530より

アンチ・ドーピング
もうすぐ北京オリンピックが開催される。人間の限界に挑戦し新記録を打ち立てるアスリートたちの姿は見る者に感動を与えるが、その感動を踏みにじるのがドーピングである。これまでもオリンピックの歴史に汚点を残したドーピング事件が数々存在する。1988年ソウルオリンピック100mで当時の世界記録を出したベン・ジョンソンが、ドーピング禁止薬物の検出により金メダルをはく奪された事件は全世界に衝撃を与えた。最近ではJリーグ川崎フロンターレの我那覇選手が、練習後にチームドクターの判断で疲労回復に効くとされる「にんにく注射」を受けたことがドーピング違
反にあたるとして、公式戦6試合の出場停止処分を受けた。我那覇選手自身はこの行為がドーピング違反という認識はなく、選手自身の問題というよりはクラブおよびチームドクターの認識の甘さを指摘する声が多かった。

最近、風邪で受診した高校生を診察した際に「ドーピングにひっかからない薬をください」といわれ困惑したことがあった。スポー
ツを楽しんでいる高校生を持つ親として、ドーピング検査を高校生にも行うのかと多少憂うつにも似た感情を抱いたが、そんなことを考えてもしょうがない。早速、ネットで調べてみた。かぜ薬に含まれるエフェドリンは競技会検査で禁止対象物質として指定されており、競技開始前3日以内の内服には注意が必要である。また医薬品として広く市販されドーピング規定違反をおこしやすい薬物として「特定物質」にも指定されているため、競技力向上を
目的としたものでないことを証明できる場合には制裁措置が軽減されることがある。さらに、葛根湯や小青竜湯などに含まれる麻黄もエフェドリン物質である。その他、禁止物質や禁止方法が世界ドーピング防止規定の2008年禁止表国際基準に記載されている。日本アンチ・ドーピング機構のホームページ(www.anti-doping.or.jp)に掲載されているので、アスリートを診察するときにはご参照あれ。

松永 弦

仙台市医師会報2008.7 No.529より

大豊神社
哲学の道を南禅寺から銀閣寺に向かって北に進むと、観光地としてはさほど有名ではない「大豊(おおとよ)神社」があります。義父の名字と名前の一字をつなぐと「大豊」になるため、親近感からどうしても訪ねてみたくなり、桜の季節に行ってみました。この神社は東山三十六峰の一つ「椿ヶ峰」の山麓にあり、生い茂る木々によって作られる適度な日陰が「椿」の生育に適し、神社の境内には安達(あだち)、侘助(わびすけ)、黒椿(くろつばき)等、多種類の椿が初冬から初夏にかけて長期にわたり花をつけます。

この大豊神社は、平安中期の仁和3年(887年)、宇多天皇の病気平癒祈願のために、勅命を奉じ、医薬祖神の少彦名命(すくなひこなのみこと)を奉祀し創建されました。その後、学問の菅原道真公、勝運の応神天皇、七福の大国主命が合わせて祀られました。大国社には「古事記」の中に野火の危機から鼠が救った神話に基づく「狛鼠」が入り口にあり、「ねずみの社」として大豊神社のシンボルとなっています。社殿奥の右手に愛らしいねずみが2匹、ちょこんと座っています。右の鼠は酒の入った珠を抱え、長寿を表し、左の鼠は知識の象徴として巻物を持っています。さらに周りには狛鳶や狛猿などが祀られており、今風のアニマルキャラクターの寄り合い所のような雰囲気があります。御神徳として、医薬祖神による治病健康、福徳長寿、学業成就などがあり、まさに医師の氏神のようにも思われます。

医薬の神様に会いに立ち寄る社として、絶好の神社と思います。京都での学会の際に、時間がありましたら、お訪ねになってはいかがでしょうか。

山口克宏

仙台市医師会報2008.6 No.528より

ハナミズキ

5月になると仙台でも街路樹や住宅地のハナミズキが一斉に咲きはじめる。この花と最初に出会ったのは北米の東海岸一帯であった。冬の厳しい寒さから解き放されたように春になると木全体が白やピンクの花でおおわれ、真っ青な空に映えるのは感動的であった。Dogwoodと教えてもらったのだが、花の持つ美しさとはかけ離れたネーミングで違和感を覚えた(総包と呼ばれる花弁様のものが犬の耳に似ているため名付けられたそうだ)。日本名ハナミズキ(花水木)というのを後に知ったが、春に芽をふくとき多量の水を吸い上げ、枝を折ると樹液がしたたるのが由来という。

明治の末に東京市長の尾崎行雄が日米親善のため桜の苗木をワシントンへ贈り(有名なポトマック河畔の桜)、その返礼として大正4年、この木の原木が東京市へ贈られたのが日本へ入ってきた最初とのこと。仙台でも宅地開発や街路樹の整備に伴い昭和50年代に植えられ始めたようだ。

毎年4月の第1週、ジョージア州オーガスタでゴルフのマスターズ選手権が開催されるが各ホールには花の名前が付けられており、2番がPink Dogwood、11番がWhiteDogwoodである。11番からの3ホールはグリーンが特に難しく魔女がすむと恐れられており、別名アーメンコーナーとも呼ばれる。毎年テレビ観戦を楽しみにしているが、このグリーン周辺の白いハナミズキはちょうどマスターズに合わせたように満開となり、あたかも魔女の心を和らげているようだ。

昨年、わが家は増改築のため庭の木々を切らざるを得なくなったが、植えてから26年たつこの木だけは最初に見た感激が忘れられず残しておいた。今年も数百の白い花を付けて咲き満ちている。平和が永く続きますようにと歌う、一青窈のヒット曲「ハナミズキ」をハミングしながら見上げると、微風に花びらが揺れこたえてくれているようにも思えた。

清野正英

仙台市医師会報2008.5 No.527より

たばこ問答

たばこの害については今や論を待たない。

とりわけ、将来ある子供たちには初めから喫煙習慣を身につけて欲しくないので、小中学生を対象にした「防煙教育」が授業にも取り入れられている。

私もそのお手伝いで教室を訪れることがあるが、子供達は真剣なまな差しで話を聞いてくれる。一通り話が済むと質問タイムになるのだが、待ってましたとばかり、あちらこちらから手が挙がるのは嬉しいことだ。

中には、日ごろから親の喫煙する姿を見て秘かに心配している子供もいて「どうしたらお父さんにたばこをやめてもらえるだろうか」という質問もある。

しかし、なんといっても多いのは「たばこを最初に吸った(発明した)のは誰か」という質問である。毎度のことなので私の想定問答集にも一応答えはある。

南米ボリビアからアルゼンチンにかけてのアンデス山脈周辺に野生たばこの起源があることから、たばこは古代文明の宗教儀式にかかわりを持ちながらインディオの間で吸われてきたと推測され、それがコロンブスのアメリカ大陸発見を機にヨーロッパに伝わり、瞬く間に世界中に広まったというのが通説である。

しかし、それでも子供たちは納得しない。「でも、最初にたばこに火を点けたのはどうして」といって食い下がる。それに対しては「山火事か何かのとき、たばこの葉の燃える香りを偶然嗅いだのかもしれない」と答える。

これは私の思いつきばかりでなく、ものの本に書いてあった話だ。もう一つ必ず出る質問に「なぜ体に悪いたばこを売っているのか」というのがある。こんな素朴な、しかし真っ当な問いかけには、大人として答えに窮してしまう。

佐藤 研