第385回市民医学講座:肝疾患について

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仙台赤十字病院 副院長 菅 野  厚 先生

と き:平成17年4月21日 午後1時30分
ところ:仙台市急患センター・仙台市医師会館2階ホール

 

 

肝臓は沈黙の臓器と言われておりますように、 たとえ肝機能異常があっても自覚症状に乏しい場合がほとんどです。

 

1. 肝機能検査の見方

肝機能検査項目には種々のものがありますが、 代表的なものを以下に示します。 血清 GOT、 GPT、 LDHは肝細胞が障害を受けたとき高値を示します。 ただし、 GOT や LDH は筋細胞が障害されたときにも高値を示しますので注意が必要です。

ALPとγGTP は胆管が障害されたときに高値を示します。 しかし、 ALPは骨の異常、 γGTP はアルコール性肝障害のときも高くなってきます。コリンエステラーゼが低値の場合は肝予備能の低下が示唆されます。 ZTT、 TTT は慢性肝炎のときに高値となります。

2. 肝機能異常の原因

肝機能異常の原因には種々のものがありますが、 頻度の多いものとしては脂肪肝、 アルコール性肝障害、 ウイルス性肝炎、 薬剤性肝障害などがあげられます。 このほかに頻度は多くはありませんが、 重要なものとして自己免疫性肝疾患があります。

 

3. 脂肪肝

これは過栄養などにより肝細胞に脂肪が沈着する病気です。 一般的には予後良好な疾患で、 食事療法と運動療法により改善されます。 しかし、最近脂肪肝の一部に慢性肝炎から肝硬変にまで進展する病態が存在することが明らかとなってきました。 この場合肝生検をしますと、お酒を飲まないにもかかわらずアルコール性肝障害によく似た組織像を呈することより、 non-alcoholic steatohepatitis (NASH) と呼ばれています。

臨床的特徴としてウイルス性慢性肝炎を思わせる GPT の大きな変動や、耐糖能異常の合併などがあげられますが、 確定診断には肝生検が必要です。治療としてインシュリン抵抗改善剤やアンギオテンシンⅡ受容体拮抗剤などの薬物療法が試みられていますが、 食事療法と運動療法が基本となります。

 

4. アルコール性肝障害

長期にわたるアルコールの多飲により起こる病気です。 はじめは脂肪肝の状態ですが、 さらにアルコール摂取を続けますと肝線維症、肝硬変へと進展します。 通常は潜行性に進みますが、 時にはアルコール性肝炎といって非常に強い炎症が起きる場合があります。 発熱、 腹痛、腹水など激烈な症状を呈し、 まれに重症化し死に至る場合もあります。 アルコール性肝障害の治療の基本は禁酒です。

 

5. ウイルス性肝炎

急性ウイルス性肝炎にはA型~E型の5種類ありますが、 ふだん我々が経験するものはA型、 B型、 C型肝炎です。急性A型肝炎は経口感染により起こり、 時々家族内発症もあります。 慢性化することはなく一過性の肝障害で治癒します。 急性B型肝炎は、成人の場合は急性肝炎でほとんど治癒しますが、 小児期に感染すると高率に慢性化します。 感染は産道感染、 性的接触、汚染針などにより起こりますが、 HBワクチンを用いることにより感染を防止することができます。B型慢性肝炎の治療にはインターフェロンやラミブジンといった抗ウイルス剤が用いられます。

急性C型肝炎は輸血や汚染針など非経口感染により発症しますが、 感染経路を特定できない症例も多く存在します。 高率に慢性化します。C型慢性肝炎にはインターフェロンが用いられます。 治療成績としては約30%の著効が得られますが、セログループ1かつ高ウイルス量のような難治性の場合にはインターフェロン単独でのウイルス排除は困難な状況です。 最近このような難治例に対し、ペグインターフェロンとリバビリンの併用療法が保険認可されました。 治験段階で難治例においても約50%の著効が得られており、今後大いに期待される治療法です。

 

6. 薬剤性肝障害

薬物あるいはその代謝物に対する特異体質、 あるいはそれらの毒性により引き起こされる肝障害です。 風邪薬、 頭痛薬、 抗生物質、 抗凝固剤、その他多くの薬剤が原因となり得ます。 治療の基本は原因薬剤のすみやかな中止ですが、それでも肝機能が改善しない場合はウルソデオキシコール酸やステロイドを使用します。

 

7. 自己免疫性肝疾患

われわれ人間の体には本来病原体や毒素などの異物から自己を守る防衛力が備わっており、 これを免疫といいます。逆に自己の構成成分に対しては免疫反応が働かないようにうまくコントロールされており、 これを免疫寛容といいます。 しかし、なんらかの引き金によりこの免疫寛容がくずれ、 自己の一部を異物として認識してしまうことがあります。 この状態を自己免疫といい、種々の疾患を引き起こします。

自己免疫性肝疾患もそのうちの一つで、 自己の肝細胞や胆管細胞が自己のリンパ球や抗体などにより攻撃され、発症すると考えられております。 自己免疫性肝疾患の代表的なものに自己免疫性肝炎があります。 これは女性に多い慢性肝炎で、抗核抗体陽性や高γグロブリン血症などいくつかの特徴を有します。 無治療の場合は早期に肝硬変に進展しますが、ステロイドを用いることにより肝炎の進展を押さえることができます。

原発性胆汁性肝硬変も女性に多い病気で、 抗ミトコンドリア抗体陽性、 ⅠgM高値、 ALPやγGTPの高値などいくつかの特徴を有します。 また、慢性甲状腺炎やシェーグレン症候群といった他の自己免疫性疾患を高率に合併します。 特徴的症状は掻痒感や黄疸ですが、 無症状の場合が多く、健診などで偶然発見されるケースがほとんどです。 治療にはウルソデオキシコール酸が用いられます。