第387回市民医学講座:身近な病気になった大腸がん

387.gif

 

 

仙台市医療センター仙台オープン病院
消化器内科医長 松 永 厚 生 先生

とき:平成17年6月16日 午後1時30分
ところ:仙台市急患センター・仙台市医師会館2階ホール

 

 

-早期発見と治療-

 

1. 増加する大腸がん

本邦では昭和54年から死因の第1位は悪性新生物であり、 死亡数304,286人 (平成14年)、 人口10万対死亡率は241.5、死亡総数の31%を占めている。 昭和45年から平成13年のがんの年齢調整死亡率をみると、 男女ともに大腸がんは増加傾向にある。

臓器別のがんの年齢調整死亡率は、 男で肺、 胃、 肝および肝内胆管、 大腸の順であるが、 女では胃についで大腸が第2位である。本邦のがん罹患の予測によると、 2015年には1年間に89万人 (男55.4万人、 女33.6万人) が、 がんに罹患し臓器別には大腸(結腸および直腸) の罹患数が男11.6万、 女7.8万になり、 男女とも第1位になると予測されている。

2. 大腸がんの発見契機と症状

どのようにして大腸がんが発見されるか?というと、 お腹の具合がいつもと違うなどの自覚症状の出現、 大腸がんの集団検診、 職場の健康診断、個別検診、 人間ドック、 入院時のスクリーニングなどが挙げられる。 大腸がんの症状をみると、 血便、 便秘、 下痢、 便通異常、 腹痛、貧血症状、 腹部膨満、 便柱狭小、 腸閉塞などがある。 一方、 検診などでも見られるように無症状で発見される場合も多い。一般に症状の有無別で見ると有症状群は病状が進行したものが多いのに対し、 無症状群の方が予後が良い。

 

3. 大腸がん検診

大腸がん検診のがん死亡の減少 (救命効果) が科学的に実証されている。 早期発見、 早期治療により救命することが最大の目的であり、積極的に実施される必要がある。 効果をあげるための条件は、 高い受診率 (1次スクリーニングと精密検査)、 診断能力などの精度の保証、精度管理、 安全性、 受容性、 財政などが挙げられる。 しかしながら1次および精密検査の受診率の低さは深刻な課題であり、国策としてのがん対策の見直しが必要であろう。 精密検査の受診率向上のための対策として、 費用が安いこと、 数多くの受診勧奨、精密検査日の指定、 苦しくない検査、 技術の向上が必要である。 受容性を高めなければ、 予後不良とされる精密検査未受診群は減らない(累積5年生存率:精検受診率91.2% VS 精検未受診群62.2%)。

 

4. 大腸の検査方法

大腸の検査法には全大腸内視鏡、 注腸X線、 S状結腸内視鏡+注腸X線、 超音波内視鏡、 拡大内視鏡、 CT、バーチャルコロノスコピーなどがある。 精検法としては診断精度の高い全大腸内視鏡検査が推奨される。 しかしながら穿孔などの偶発症や強い癒着、長い腸、 屈曲の強い腸などでは挿入時に疼痛を伴うことがある。 対策として鎮静剤の使用や状況に応じて、 代替えの検査法の提案も重要である。

 

5. 大腸がんの診断と治療

診断には存在診断 (病気を発見する)、 質診断 (病気を鑑別する)、 量的診断 (深達度診断) があるが、 後者では通常内視鏡、拡大内視鏡、 超音波内視鏡を用いて、 治療法の選択に役立てている。 大腸がんのリンパ節転移の問題からmがんおよびsm1がん(粘膜下層を3等分し粘膜下層上1/3) は内視鏡的摘除術、 それ以深のがんは外科的切除の適応になる。

早期大腸がんの内視鏡治療件数は年々増加している。 粘膜下切除術 (EMR)、 分割摘除、 粘膜下層剥離術 (ESD) などの技術的進歩に伴い、 より大きな病変の切除が可能となった。

外科治療として開腹術が主流であるが、 比較的手術浸襲の少ない腹腔鏡下大腸切除術 (LAC) が増加している(当院では235例を施行:平成11年7月~平成17年1月)。 LACのメリットは、 在院期間の短縮 (在院日数:平均16日)、 美容上の利点、安全性、 根治性および長期成績は良好が挙げられる。

 

まとめ

大腸がんの早期発見、 早期治療のためには、 集団検診や健診 (人間ドックなど) への積極的な受診が重要である。