第388回市民医学講座:うつ病のさまざまな原因と対策

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福田クリニック院長 福 田 一 彦 先生

とき:平成17年7月21日 午後1時30分
ところ:仙台市急患センター・仙台市医師会館2階ホール

 

 

-ストレスフル社会での工夫-

 

うつ病とは 「憂うつな気分がいつまでも続いて、 そこから抜け出せないと思い込むこと」 である。 米国の診断統計分類 DSM Ⅳや国際疾病分類 ICD 10ではうつ病を気分障害として一つのカテゴリーにまとめてしまったために、 うつ病の範囲が著しく拡大した。

しかし臨床的に治療効果や経過をみると、 伝統的な分類には意義があったと言える。 うつ病には少なくとも次の3つのタイプがある。

1. 主要なタイプ

1) うつ病:
メランコリー型、 双極型とも呼ばれる。 メランコリーとは悲哀、 塞ぎこむことである。

原因:
遺伝 生物学的体質にさまざまな誘因が加わって発病する。

症状の特徴:
自信喪失、 悲哀感、 希望のなさ、 活気のなさ、 思考の渋滞がある。 憂うつ気分、 不機嫌、 心気症 (頭痛、 腰痛)、 自律神経障害 (不眠、 便秘) がみられる。

性格:
几帳面、 こだわり、 役割意識が強い。

誘因:
心因のように明白ではないが、 本人には主観的に強いインパクトを与える。 例えば入学、 就職により子供が家を離れる出立、 退職、 新築、 改築、 引っ越しなどである。

 

2) 反応性うつ病:
心因性抑うつとも呼ばれる。 適応障害、 PTSD などが含まれる。

原因:
明白な心因、 例えば家族や親しい人の死、 事故、 災害への遭遇、 大失敗、 激しい叱責を受けたこと、 巨額の借金を負ったこと、 過労、 いじめにあうなどの葛藤がある。

症状の特徴:
疲労・倦怠感、 無力感、 不安・焦燥感、 心気症がみられる。

 

3) ジスチミー (気分変調症) :
神経症性うつ病、 軽症うつ病とも呼ばれる。 逃避型抑うつ、 反復短期うつ病などが含まれる。

原因:
父親や夫の暴君的な支配にさらされてきた人が多い。

症状の特徴:
劣等感、 不全感に支配され、 楽しいという感情が乏しい。

 

4) 合併症としてのうつ状態はしばしば見られ、 気分の低下が多い

①精神疾患では統合失調症、 神経症、 境界例などに合併する。

②脳、 身体疾患ではアルツハイマー病、 脳梗塞、 インフルエンザ、 甲状腺病で見られる。

 

5) 経過:
うつ病は普通3ないし6カ月で回復するが、 10~15%は1年以上慢性化する。 更年期のうつ病は数年にわたることが少なくない。 反応うつ病は大抵3カ月以内で回復し、 再発はほとんどしない。 ジスチミーは軽症だが数年以上と長い。

6) 治癒過程:
良く眠れるようになる。 朝起きたときの気分が良い。 気持ちが楽になる。 不安・焦燥感がなくなる。 おっくうさがとれる。

7) 心理テスト:
自己評価式抑うつ尺度 (SDS) 50点以上はうつ傾向がある。

 

2. 治療

1) 病気を認識する:
休養、 十分な睡眠が必要である。 しばらく職場や仕事から離れる。 患者を怠け者、 わがまま、 仮病と見ない。

2) 薬物治療:
急性期には適切な薬剤を選択するまで数回処方を変更する必要がある。

 

①病型と薬物治療:メランコリー型では睡眠導入薬、 三環系抗うつ薬、 SSRI、 SNRI が主要な選択である。 反応型では睡眠薬、 ジスチミーでは抗不安薬が比較的よく使われる。

②病型と薬物治療の転帰:筆者のクリニックでは治癒と軽快を合わせるとメランコリー型うつ病では65%、 反応うつ病では90%、 ジスチミーでは100%であった。

 

③慢性期の治療は異なってくる。 抗てんかん薬も使う。 服薬期間はアルコールの過剰摂取は控える。 セロトニン症候群など予想外の重篤な副作用を呈することがあり注意を要する。

3) 精神療法、 カウンセリング:
大抵は支持的、 説得的療法が行われる。 不快な記憶がよみがえっても、 すぐ忘れるようにして、 いつまでも反芻しない。 浸らない。 反応うつ病で効果的である。

 

認知療法:
悲観的な考えにこだわっていること (スキーマ) を認め、 変えるようにする。
現状はほんとに悲観的なのか、 解決策はないのか考える。 常に前向きに考える習慣をつける。

4) 環境調整:

①職場:過労に陥らないようにする。 仕事の量を調節してもらう。 何事も努力すれば良いとは限らない。 合わない上司から距離を置く。

②家庭:嫁 姑問題、 夫の暴言・暴力などは依然として深刻な葛藤を家族内に起こしている。

 

3. 予防
1)
ストレスを溜めない。 夜8時は宵であり、 それまでに帰宅するようにしたいものである。 休みは確実に取り、 休日には出勤しない。

2) アルコールを睡眠薬代わりに飲むことは危険であり、 かえって肝機能障害、 胃腸障害をきたしやすい。

3) 仕事―休息―楽しみの生活リズムを作り保つ。

4) 過当な競争社会、 長引く不況下では適応できない人間が増加するのは必然である。 自分のペースで働き、 生活するのが一番良いと思う。 自殺するくらいなら、 会社を転出するのも選択肢である。

 

4. 自殺予防
1)
自殺の兆候:治療の始まり、 治りがけが危ない。 手詰まりの状況になる。 生きていても何も面白くない。 自分の居場所がない。 「疲れた。 死にたい」 ともらす。 薬をためる。 紐を隠し持つ。 周りが早く気づけば幸運である。

2) 誰かと相談する。 孤立しない。 「死にたい」 と述べる人には、 「衝動的、 一時的な感情で人生を終わりにしないようにする」 「早まってはいけない。 死んではいけない」 「残された家族を考えて」 と繰り返し告げておく。   

3) 診察の終わりに、 「また来てくださいね」 と声をかけることも重要である。 治癒にいたる最後の仕上げは喜び、 楽しさ、 嬉しさ、 笑いが重要である。