第393回市民医学講座:脳卒中を予防し、健やかな人生を

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独立行政法人国立病院機構宮城病院
院長 木 村  格 先生

とき:平成17年12月15日 午後1時30分
ところ:仙台市急患センター・仙台市医師会館2階ホール

 

 

はじめに

我が国は世界に誇れる長寿の国になりました。単に人の寿命が長くなることではなく 「長寿である」 ということがとても大切だと思います。 長寿とは、 人生を長く、しかも幸せに過ごせるということだと考えます。 寝たきりや認知症に悩むことなく、 高齢になっても、 日々楽しみや生き甲斐を持ち続けたいものです。

さて、 脳卒中は昔から我が国に特に多い病気で、 働き盛りの人に突然発症し、 その人の人生や人格を破壊する障害を残し、時には死に追いやる重い病気として恐れられていました。 最近では救命され、 死に至る確率は少なくなりましたが、それでも東北では成人の死亡原因の第2位を占め、 毎年脳卒中によって人口10万人当たり200人が亡くなられています。 救命後も、手足の麻痺や言葉の不自由さ、 記憶や判断の障害といった心身両面で重度の後遺症を残します。 病気になった人だけではなく、一家全体を悲惨な状況に巻き込む大変な病気です。 長寿を妨げる寝たきりや認知症の原因としても最も大事な病気になっています。

脳卒中のもうひとつの特徴は、 よい生活習慣を心掛けることや、 脳卒中危険因子を治療することによって、発病を確実に予防できるということです。 脳卒中を予防することによって、 個人個人が長寿を全うできるだけではなく、 社会全体の生産性を向上させ、医療費を抑制できることから、 その経済的効果は極めて高いものとなります。 私たちは、一人ひとりが自らの脳卒中を予防する義務があるのだと思います。

 

脳卒中とその分類

脳卒中は脳の病気で、昔から何か悪い風や空気に当たって (中)、 突然 (卒として) 発症すると考えられてきました。 最近では突然発症するだけではなく、何ら自覚症状のない状態で、 知らず知らずの内に脳硬塞が進む無症候性脳卒中も多くなってきました。

脳卒中は大きく3つのタイプに分けられます。 脳硬塞、 脳出血、 クモ膜下出血です。脳硬塞は神経細胞を含む脳組織に新鮮な酸素とグルコース等の栄養を運搬する脳の血管が詰まり、 その流域の脳組織が死滅する状態です。

この原因として脳血栓症と脳塞栓症があります。 脳血栓症は脳血管に動脈硬化が進み、血管壁に大きな血栓が形成されて血液の流れが塞ぎ止められることによるものです。 脳塞栓症は心臓の弁膜症や不整脈を伴って起こることが多く、心臓内腔や脳への大血管壁から血栓が遊離し、 それが脳血管の栓塞を引き起こします。 脳硬塞は脳卒中全体の約65%を占め、今後ますます増加する傾向にあります。

脳血管が破れて脳組織の中に出血を起こす脳出血の発症率は年々低下する傾向があり、 脳卒中の約25%を占めます。クモ膜下出血は脳動脈瘤と呼ばれる脳のコブが破れて、 脳表面に出血を起こすタイプで、 脳卒中の約10%を占めます。脳卒中は一般に男性に多く発症する傾向がありますが、 クモ膜下出血だけは女性にやや多く発症する特徴があります。

 

脳卒中の予防

脳卒中の最大の発症要因 (リスク因子) は高血圧です。 高血圧を持っていることはリスクではなく、高血圧が十分コントロールできないことが重大なリスクになります。 そのほかに脳卒中を発症しやすくする要因には、 糖尿病、 動脈硬化、 肥満、喫煙習慣などがあります。 一つ一つのリスク因子の程度は軽くても、 複数のリスク因子が重なると脳卒中は何倍も発症しやすくなります。

高血圧の直接の原因となる食塩摂取量やカリウム、 動脈硬化の要因となる飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸、 脂肪組織と甘いもの、運動療法など自ら守ることができる具体的な対策について一緒に考えてみましょう。

健やかな毎日を

健やかに毎日を過ごすためにはその人らしい生き方ができなければなりません。 長い人生にはいろいろなことが起こります。小躍りしたくなるような嬉しいことも、 打ちのめされるほど悲しいこともありましょう。

人生に起こることにはすべて必然性があり、その人に必要だから神が与えてくれるという考えがあります。 どんなマイナスなことからも、そこから新しい力やエネルギーを生み出す試練と考えられれば素晴らしいと思います。

もちろん深い悲しみの最中には、そんな余裕はないかも知れません。 やがて時間がそれらを解決してくれるでしょう。人生には自分にとって不必要なことは何一つないことにも気付かされます。

私たちの持っている脳の素晴らしい働きで、 毎日の生活の中で喜びや悲しみを感じ、 どんなときにも発想を転換してまた生きる力を与えてくれます。 脳は自分の人生をより安全に、 より良く、 賢く生きるために働いています。

 

健やかに生活するための10ヶ条

これはしばらく前に河北新報社から出版された 『ぼけを考える その予防、 治療、 介護の実際 』 という著書からの引用です。

第1条 人生は悩み過ぎないこと。 ゆとりを持ってゆっくり過ごしましょう。 「永遠に続く不幸というものはない、 じっと我慢するか、勇気を持って追い払うかのいずれかである。 (ロマン・ローラン 1866~1944)」 悩みや問題はいつも容易に追い払えるわけではなく、時にはゆっくりと時間が解決してくれるのを待つのも大切です。
第2条 人生に楽しみを持ちましょう。
第3条 社会や家庭で役割分担を持ちましょう。
第4条 若い気持ちを持ち続け、 若者の考え方を理解しましょう。
第5条 朝は早く起床し、 毎日の生活にリズムを持ちましょう。
第6条 年をとってもオシャレは大事です。
第7条 できるだけ手を使う工夫をしましょう。
第8条 よく歩く習慣を付けましょう。
第9条 脳以外の病気にも注意をしましよう。
第10条 時には脳の健康診断を受けましょう。 何か心配なことがあれば専門医に相談して下さい。