第395回市民医学講座:脳卒中からの回生

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帝京大学教授                  
リハビリテーション専門医 鈴 木 堅 二 先生

とき:平成18年2月16日 午後1時30分
ところ:仙台市急患センター・仙台市医師会館2階ホール

 

 

-急性期リハビリテーションの重要性-

 

脳卒中 (脳血管障害) は、 わが国の死亡率でがん、 心疾患に次いで第3位ですが、 国民医療費ではがんに次いで第2位であり、 65歳以上に限定すると第1位になります。 また脳卒中には後遺症があり、 介護保険対象者の原因疾患として30%ほどを占めています。

脳卒中の予防には日常の健康管理が大切ですが、 脳卒中になったらどのような対応が必要かを考えてみましょう。

1. 脳卒中の初期症状は

①急な頭痛やめまい ②急な手足のしびれや脱力 ③意識の低下 ④ろれつがまわらない ⑤体のふらつきなどの症状があれば脳卒中が疑われます。できるだけ早く病院での診察を受けなければいけません。 意識低下などの重症な場合は救急車での受診をお勧めします。

脳卒中には発症後機能障害が伴うことが多く、 それには早期の診断と適切な治療ができる医療施設の選択が影響します。

 

2. 病院の選択は

脳卒中には脳梗塞、 脳内出血、 くも膜下出血があります。 これらの診断と治療には脳外科や神経内科の先生が担当し、 CT・MRIなどの検査が可能であり、 できれば発症から3時間以内に適切な治療ができる病院がよいでしょう。

昨年脳梗塞に対する新薬の使用が認可され、 3時間以内の使用で後遺症が軽減されるといわれています。 また重症な脳出血やくも膜下出血では脳外科的な手術が必要となる場合もあります。

 

3. 急性期リハビリテ-ション

脳卒中の後遺症には片側の上・下肢の運動・感覚障害 (片麻痺、 半身不随)、 言葉・注意・空間無視などの認知障害、 摂食・嚥下 (飲みこみ)障害、 排泄障害などがあり、 人によってそれぞれ障害の程度に差がありますが、 日常生活での動作が制限されます。

これらの機能障害の回復には早期にリハビリテ-ションが開始され、 現在では発症から3日以内に開始するのが一般的になっています。意識障害や合併症があってもベッドサイドから療法士が体や四肢の関節が硬くならないように治療を開始します。 意識などの状態が改善したら、できるだけ早く座位がとれようになることが大切であり、 早期の座位保持は意識の改善、 嚥下や呼吸の障害の改善にも有効です。その後座位・立位・歩行へとリハビリテ-ションを進めていきます。

これらのリハビリテ-ションでは専門医や理学・作業・言語療法士により計画的な治療が行われます。 専門医は発症から1週間の患者さんの状態から、機能がどこまで回復するかおおよその予測ができます。 厚労省は脳卒中の集中的な治療と早期のリハビリテ-ションが開始できる 「脳卒中ユニット」を救急病院に設けることを推奨しています。

 

4. 後遺症の回

脳卒中により失われた機能は、 発症から1~2カ月以内に最も回復し、 回復の70~80%以上がこの時期にみられ、リハビリテ-ションでは重要な期間です。 これは脳の血行障害や一次的なむくみの改善による回復であり、この間に毎日リハビリテ-ションを計画的に行うことが大切です。 訓練目標は 「食事」、 「整容」、 「歩く」、 「排泄」などの日常生活での基本的な動作が自立できるようになることです。

軽症な患者さんは3~4週間ほどで自立できるようになり、 直接自宅に退院できますが、中等症では2~3カ月間以上のリハビリテ-ションを要する場合もあります。 急性期病院には長期に入院することはできませんので、次のリハビリテ-ション専門病院で回復期リハビリテ-ションを受けることになります。

発症後機能訓練を継続しても6カ月を過ぎると回復は少なくなりますが、軽・中等症ではその後も訓練を継続すると脳に新しい神経ネットワ-クが形成され (脳の可塑性)、 失われた機能がある程度回復することがあります。しかし、 現在の医療技術レベルでは大きな回復はなく、 今後の研究に期待するところです。 重症な患者さんでは、残念ながらリハビリテーションを十分行っても日常生活の動作が自立できない人が全体の20~30%おり、 一部介助あるいは全介助の生活となります。

 

5. 生活活動の維持・向上

回復期リハビリテ-ションでは心身の障害に応じた生活設定、 つまり在宅や施設での生活や職業への復帰を目指すことが目標になります。介護が必要な場合は介護保険の手続きを行い、 後遺症が重い場合は身体障害者の判定を受けると福祉サ-ビスが受けられます。

発症から2~3年を経過すると機能や活動が大きく低下してきますので、 通所や訪問によるリハビリテ-ションや自己訓練を毎日継続して心身の機能と活動を維持しましょう。

趣味を楽しんだり、 外出の機会を多くして生活を豊かにするように努め、 障害が重度でも人生を楽しめるような生活環境を設定してあげましょう。 脳卒中からの回生には患者さん本人のリハビリテ-ションに対する強い意思と家族や地域社会の支援が必要です。