第397回市民医学講座:ペットからの感染症とその予防について

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川村動物クリニック  
院長 川 村 康 浩

とき:平成18年4月20日 午後1時30分  
ところ:仙台市急患センター・仙台市医師会館2階ホール

 

 

はじめに

人と動物の共通感染症は、 人獣共通感染症(ズーノーシス)、 人畜共通感染症などと呼ばれています。 厚生労働省では、 人の健康問題という観点に立って動物から人に感染する病気を特に「動物由来感染症」 という言葉で呼んでいます。

WHO (世界保健機構) では、 ズーノーシスを「ヒトとヒト以外の脊椎動物との間を自然条件下で伝播する微生物による疾病および感染」 と定義づけしていますが、その感染症は現在200種類以上あるといわれています。

 

人と動物の共通感染症の原因・伝播・宿主

まず、 原因となる病原体は、 ウイルス、 リケッチア、 クラミジア、 細菌、 真菌、 寄生虫、 原虫、 異常プリオン蛋白などがあげられます。伝播に関しては、 直接伝播では、 咬傷、 なめられる、 引っかき傷、 排泄物、 咳、 くしゃみなどの行為があります。

間接伝播では、 環境媒介として水系汚染、 土壌汚染などがあり、 ベクター媒介としては、 ダニ、 蚊、 ノミ、 巻き貝などがあります。 また、 動物性食品として肉や魚肉からの伝播もあります。
宿主と代表的な感染症では、 従来のペットとして、 犬、 猫、 小鳥、 観賞魚からは、 狂犬病、 トキソプラズマ症、 猫ひっかき病、オウム病などがあります。 最近多くなってきたエキゾチックペットとして、 プレイリードック、 フェレット、 カメなどからは、 Bウイルス症、クリミア・コンゴ出血熱、 鼠咬傷などがあります。

野生動物からは、 エキノコックス症、 腎症候性出血熱、 レプトスピラ症、 野兎病、リステリア症、 クリプトコッカス症などがあります。

また、 学校飼育動物として、 ウサギ、 ニワトリ、 ウズラ、 金魚、 コイなども飼育されており、 上記感染症の他、 サルモネラ症、 パスツレラ症、 Q熱、 エルシニア症なども注意が必要です。

その他、 家畜として、 ウシ、 ウマ、 ブタ、 ヒツジ、 ニワトリからは、 炭疽、 ブルセラ症、 日本脳炎、 BES (狂牛病)、 高病原性鳥インフルエンザなどが問題になってきます。

 

ペットの飼育と位置づけ

近年、 ペットという言葉の他に、 伴侶動物、 コンパニオンアニマルといった言葉が使われるようになってきました。 その理由は、ペットの地位が、 以前よりもより身近になり家族と同様になってきたからです。 これは、人とペットとの距離がより接近したということにつながります。 これにより、 私たちは、感染症に対して今まで以上に正しい知識を持ってペットに接することが必要になってきました。

知識がないまま、 ペットを飼育するのは非常に危険な行為です。 近ごろは、 エキゾチックアニマルと呼ばれる、 犬、猫以外の小動物が大変な人気を呼んでいます。 この中には、 十分な生態系やどんな感染症にかかるのかわかっていない動物たちもたくさんいます。野生動物も欲しがる人たちが増えています。 そのため、 海外から動物が密輸され、 国内に恐ろしい感染症が入り広がる可能性が高くなってきています。狂犬病も国内には50年存在していない状況ですが、 今、 いつ入ってきてもおかしくない状態になっています。

しかも、国内の狂犬病予防注射接種率は、 40%台まで低下しています。 この無防備な状況は、 近年、大規模な感染症が国内には流行していないことも理由の一つにあるのかもしれません。

しかし、 狂犬病だけ例にとっても、 世界中では、 15分に1人が狂犬病で死亡している計算になります。 2003年に、国内への輸入が禁止となったプレイリードックは、 ペストの媒介として有名ですが、 過去に世界中では3度、大規模にペストが流行し1度に約1億人の死者を出したこともある恐ろしい病気です。 それが、 一歩間違えれば国内に入ってきたのです。

いえ、これからいくらでも入ってくる可能性はあります。 これだけ高速遠距離輸送ができる世の中です。 世界中の感染症は、目の前にあるということをまず理解する必要があります。

 

感染症の予防について

過剰なふれあいは控えるべきです。 細菌やウイルスなどが動物の口や爪の中にいる場合があるので、 口移しで餌を与えたり、 動物と一緒に寝ることも控えたほうがいいです。

動物にさわったら必ず手を洗いましょう。 知らないうちにだ液や粘液に触れたり、 傷口などにさわってしまうこともあるので、 必ず手を洗いましょう。 動物の身の回りは清潔にしましょう。 小屋や鳥かごなどはよく掃除をして、 清潔を保ちましょう。

糞便が乾燥すると空中に漂い、 吸いこみやすくなるので、 糞尿はすみやかに処理しましょう。 室内で動物を飼育するときは換気を心がけましょう。

公園では特に砂場は注意が必要です。 子供がおもちゃを口に運ばないように、 指しゃぶりをさせないように注意し、遊びおわったら十分に手を洗いましょう。 また、 糞を見つけたら速やかに処理しましょう。 野生動物の飼育はやめましょう。特に野生捕獲種は危険度が大きいので注意しましょう。 犬、 猫、 フェレットなど、 ワクチン接種ができる動物はきちんと毎年接種を受け、 ノミ、ダニの予防、 駆除や、 定期的な駆虫をするなどして、 健康状態の維持と感染症の予防に努めましょう。

 

最後に

動物のことで何か疑問を感じたら、 迷わず動物病院に相談して下さい。 そして、 飼主本人が体に不調を感じたら早めに病院で受診をしましょう。

動物たちは人の健康に深く関与し、 子供の正常な前頭葉 (感情を司る部位) の形成には特に重要といわれています。 それゆえ、学校飼育動物の必要性も理解され、 厚労省でも推進してきました。 その半面、 特に知識のない子供たちには、十分な知識をもって大人が接しながら指導していくべきだと考えます。

人は動物とより身近に生活するようになった分だけ、 より詳しく動物のことを知る必要があります。感染症に関して何もむやみやたらに恐れる必要はありません。 子供たちや他人に恐れを植え付ける必要もありません。 ですが、知らないから人は恐れるのです。 上記に説明した当たり前のことをきちんと守って、 楽しく動物たちと生活して下さい。そして動物から素晴らしい力を受け取って下さい。