第402回市民医学講座:あなたにもできる心肺蘇生とAED

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東北大学病院救急部
北 條 伸 子 先生

 

とき:平成18年9月21日午後1時30分
ところ:仙台市急患センター・仙台市医師会館2階ホール

 

 

えっ!これだけでいいの?

 

はじめに -心肺停止の発生状況とAEDの効果-

AEDはAutomated External Defibrillator (自動体外式除細動器)の略で、心肺停止した(呼吸と脈がない)人の胸にパッドを張り付けて、突然死の原因に多い心室細動(VF)および心室性頻脈(VT)という不整脈を自動的に認識し、その効果的治療法である電気ショックを与える装置です。日本では2004年から一般市民の使用が許可され、医療施設をはじめ、空港、駅、学校など、人が集まる場所に急速に普及していますが、2006年9月8日の読売新聞に以下のような記事が掲載されました。

「心肺停止の応急処置 電気ショックで生存率5倍に 2005年の救急搬送データを基に、総務省消防庁が全国規模で初めて調べたところ、心筋梗塞(こうそく)などで心肺停止状態になった救急患者のうち、近くに居合わせた人や救急隊員がAEDで電気ショックを与えたのは昨年1年間で4799人。その1カ月後の生存率は17.5%だった。これに対し、電気ショックを与えなかった1万3881人の生存率は3.5%。また、居合わせた人が心臓マッサージなどをした場合の生存率も、しなかった場合の1.4倍に達した。」

実はこの記事には少々問題があります。AEDは検知した心電図波形がVTかVFのときだけ電気ショックをかける装置なので、心電図波形がそれ以外なら、ショックは与えられません。ですから、どんな人にも電気ショックを与えれば5倍の確率で蘇生されるという単純計算ではないのです。しかし、ショックが有効な波形であれば病院到着前にAEDを使うことで2割が心拍再開し、その率はショックが無効な波形やAEDをしなかった場合に比して約5倍も高かったということですから、AEDを施行する意義が大変大きいことがわかります。

 


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AEDは時間が命

突然死の原因の約7割はVFと呼ばれる不整脈です。学童でも、胸にボールがあたるなど、心臓に強い衝撃が加わると、タイミングによってVFが引き起こされることがあります。これを心臓振盪といい、実際に仙台の小学校で死亡例が生じています。VFは早急に電気ショックを与えれば高率に正常な心拍に戻りますが、放置すれば、多くの場合、だんだん電気ショックが無効な波形に変わり、最後には平坦になって心臓が完全に止まってしまいます。

電気ショックによる蘇生率は1分ごとに約10%低下するので、タイムリミットは、発症後約10分となります。しかし、救急車が出動から現場到着するまでに平均で約6分かかるため、救急隊が電気ショックをかけるころには蘇生率は40%以下に落ちてしまっています。ですから、蘇生率を上げるためには、救急隊が来る以前にAEDが使用できる状況が必須なのです。

近年、世界中にAEDが普及し、病院搬送前に使用することによって救命率が上がってきています。日本でも2004年に一般人によるAEDの使用が認められてから、病院、自動車学校、消防署などで講習会が頻繁に開催されいます。

しかし、講習は必須ではありません。AEDは音声ガイダンスに従えば初心者でもほぼ間違いなく使用できるので、もし周りに受講した人がいなくても、躊躇せずAEDを使用してほしいと思います。AEDは現在、病院、診療所、駅、空港、競技場、学校、スポーツ大会、劇場、イベント会場などに設置されていますが、見過ごされやすいため、もし目に入ったら「こんなところにある」と、是非、心に留めて置いてください。

 

da402_03.gif心臓マッサージと人工呼吸-AEDが届くまで

現在の市民向け心肺蘇生法では、倒れた人を見たら、まず、自分の身の安全を確認し、その後、近づいて呼吸がないか確認し、なければすぐに周りの人に119 番通報してもらうとともに、近くにAEDがあれば取りに行ってもらいます。

では、AEDが届くまでの間、救助者はどうすべきでしょう。統計では、何もしないより、心臓マッサージと人工呼吸をするほうが救命率が高いことがわかっています。効果的な心肺蘇生法については、世界会議で定期的に改良点が検討されており、最近では2005年に見直しがされました。それによれば、心臓マッサージを10秒以上中断すると蘇生率が明らかに低下するため、呼吸の確認や人工呼吸は必ず10秒以内に行い、すぐに心臓マッサージを再開します。

服を脱がせたり、胸にAEDのパッドを張る間もできるだけマッサージは続けます。心臓マッサージと人工呼吸の回数の比も、マッサージの中断を少なくするため、これまでの15対2から30対2に変わりました。心臓マッサージで胸を押した後しっかり圧迫を解除することにより、胸が広がって自然に肺に空気が流入するので、頻回の人工呼吸は必要ないのです。また、人工呼吸のとき相手の口を覆って感染を予防する用具(フェースシールドなど)がない場合は、無理に人工呼吸をする必要はなく、心臓マッサージだけでよいことになりました。

マッサージのスピードは1分間に100回です。心拍が戻るまではマッサージを中断しないことが大事で、AEDが電気ショックを施行した後もすぐに胸の圧迫を再開し、2分後に AEDが心電図の解析を再開するまで、もしくは患者が動き出すまで継続します。そして、患者が意識を戻したとしても、救急隊が来るまではAEDのパッドを外さないでおきます。

講座では人形を使って、参加者に実際にAEDを使った心肺蘇生を体験して頂きましたが、インターネットのhttp://j-pulse.umin.jp/aed.htmlで、現在、心肺蘇生法のビデオが閲覧できます。興味のある方は是非、一度ご覧になってください。