第410回市民医学講座:忍び寄る肺の病気COPD

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NTT東日本東北病院内科
医長 高橋 識至 先生

とき:平成19年5月17日午後1時30分
ところ:仙台市医師会館2階ホール

 

 

1. COPDってどんな病気

 

皆さんはCOPDという病気をご存じでしょうか。慢性閉塞性肺疾患chronic obstructivepulmonary diseaseの頭文字をとった略語ですが、AIDS(後天性免疫不全症候群)やSARS(重症急性呼吸器症候群)などと同様に、一般名称としてCOPD と覚えていただきたいと思います。

COPDとは主として喫煙によって生じた肺の慢性炎症のために気道内の空気が通りにくくなる病気で、患者さんのほとんどが喫煙者であることから「タバコ病」ともよばれております。従来は、慢性気管支炎あるいは肺気腫とよばれていたものですが、原因(ほとんどがタバコ)、診断(肺機能検査)、治療法の共通性から、COPDと統一して管理されるようになりました。世界の死亡原因ランキングにてCOPDは約15年後の2020年には虚血性疾患、脳血管障害につぐ第3位になると予測されています。

日本の禁煙対策の遅れからCOPDの罹患率、死亡率の増大は必至で、間違いなく21世紀における最も脅威となる疾患のひとつであると予測されているのです。

 

日本では2000年にCOPD疫学調査が実施され、40歳以上の約8%、喫煙歴を有する者に限ると約15%、絶対数にすると日本で500万~700万人がCOPDに罹患していると推定されました。しかし病院を受診したCOPD患者はたったの34万人で、大半のCOPD患者は見過ごされているのです。その理由は、この疾患の初期は無症状であることが多く、発症しても経過が極めて緩徐なので、自ら医療機関を受診しないことにあります。さらに、この疾患に特徴的な慢性の咳、痰、労作時息切れという症状が出現するに至っても、「年のせい」「タバコを吸っているからあたりまえ」「別の病気(風邪、喘息など)だからそのうち治るだろう」などと認識してしまうことも多いようです。

自分でCOPDを疑うには以下のことに留意してください。COPDの比較的早期の段階から、

 

①慢性の咳、

②慢性の痰がみられ、さらに進行すると、

③労作時の呼吸困難を感じるようになります。

 

上記①②③のいずれかがあればできるだけ早く受診して肺機能検査を受けましょう。症状がなくても中高年で喫煙歴のある方はCOPDを疑って、検診などで肺機能検査を受けましょう。

 

2. COPDの治療について

禁煙はCOPDの発症リスクを減らし、進行を止める唯一の方法です。COPDの肺機能の年間低下量は非喫煙者の3~5倍にもなるのですが、禁煙2年で減少率は非喫煙者と同等となります。ただし一度増悪した肺機能は元に戻らないため、できるだけ早期の禁煙が必要なのです。 たとえ病状の進んだCOPDであってもけっしてあきらめる必要はありません。現在では薬剤(特に長時間作動型気管支拡張薬)と呼吸リハビリテーションの進歩によって、あらゆる病期においても適切に管理を受ければ、症状やQOLの改善が期待できます。とにかくできるだけ早期に診断を受けて禁煙をはじめとする適切な管理を受けることが重要なのです。

COPD慢性安定期の管理は、病期(軽症、中等症、重症、最重症)に応じて段階的に増強していくのですが、中等症以上では長時間作用型気管支拡張薬の定期使用が推奨されています。COPDはさまざまな程度の可逆性(治療によって正常に近づくこと)をもった閉塞性障害を示す疾患ですが、喘息のように劇的な改善がないことから、従来は薬物療法に消極的な風潮でした。

しかし最近の報告では、気管支拡張薬(特に長時間作動型)投与によって、症状の改善、急性増悪の予防、運動能力およびQOLの改善も明らかとなっており、できるだけ積極的に薬物療法を試みるべきなのです。特に近年使用可能となった長時間作用型抗コリン薬という薬剤の登場によって、中等症以上におけるCOPDの薬物療法は大幅な改善をみたように思われます。

剤形については、全身的副作用のほとんどない吸入剤の使用が望ましいのですが、高齢等により吸入手技に不安のある場合は経口剤、貼付薬も考慮されます。また効果不十分の場合は、単剤の容量増加より、作用機序の異なる他剤を併用した方が、副作用も少なく、相加的な気管支拡張効果を期待できます。

 

3. 包括的呼吸リハビリテーションとチーム医療

中等症以上のCOPDでは、前に述べた薬物療法と同様に呼吸リハビリテーションが適応となります。呼吸リハビリテーションは、最大限の薬物療法をなされている患者さんにおいても、さらに上乗せの改善効果を得ることができます。その効果とは、息切れの減少、運動能力、ADLおよびQOLの改善、さらには急性増悪、入院回数・期間の減少です。

呼吸リハビリテーションは多職種がかかわる包括的なプログラムでなされ、ディレクター(医師)、コーディネーター(看護師等)により調整された医療チームの形態でかかわります。包括的呼吸リハビリテーションのプログラムには、入院、外来、在宅など、さまざまな形態がありますが、維持期においては、患者さんが日常生活の中で無理のない日課に近い形で実施できることが望ましいとされます。

そのためには、包括的医療を展開する医療チームとして、ひとつの医療機関の中にとどまるものではなく、患者さんが長年住み慣れた地域に根ざしたものにしていきたいと考えております。