第415回市民医学講座:「骨」丈夫で「生き方」上手

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中條整形外科医院
副院長 中條 悟 先生

とき:平成19年10月18日午後1時30分
ところ:仙台市医師会館2階ホール

 

 

「骨」丈夫で「生き方」上手
-「寝たきり」にならないための骨そしょう症の話-

 

今回の講演は「骨丈夫で生き方上手」という題名にしましたが実際は骨粗鬆症の話をいたし
ます。特に「寝たきりにならないための」という副題をつけさせていただきました。

さて、皆さんは骨粗鬆症って聞いたことがありますか?一見して難しい漢字ですね。この「鬆」の字ですが大根などに「ス」が入る状態を意味するのだそうです。
この骨粗鬆症について一般に考えられそうな疑問をいくつか挙げてみましょう。

  • 骨粗鬆症は病気なの?老化なの?
  • 骨粗鬆症って怖い?
  • 骨粗鬆症は痛い?
  • 骨粗鬆症はどうやって診断するの?
  • 骨粗鬆症は治るの?
  • 骨粗鬆症は食事や運動で予防できるの?

こうした疑問に答える形で話を進めようと思います。

骨粗鬆症は老化なのか

まず骨粗鬆症は病気なのか、老化なのかです。年齢とともに骨密度は低下するのは確かです。しかし骨粗鬆症は決して老化ではありません。病気(疾患)なのです。まず、なる人とならない人がいる点で老化とは区別すべきでしょう。さらに診断の目安である診断基準があることや有効な治療法の発達なども明らかに老化とは違います。

骨粗鬆症が困るのは骨折を起こすからですが、きっちり診断して治療をすれば骨折を予防できるのです。骨粗鬆症には国際的な定義というのがあります。「骨粗鬆症は骨強度の低下によって骨折のリスクが高くなる骨障害である。骨強度には骨密度と骨質の両方が反映する」とされています。

「骨密度」が低くなれば骨折が起きやすくなるのは容易に想像できます。一方で「骨質」の概念は少し難解です。例えば、以前話題になった耐震強度偽造のマンションを想像してみて下さい。見た目は立派でも鉄骨が少なかったり、コンクリートの質が悪いと地震に耐えられません。同様に骨質が悪い人は骨密度が高い(見た目は立派な?)人でも骨折しやすいことが知られています。

ただし、今のところ骨密度のようにはっきりした評価の目安が骨質には少ないのが難点です。

骨粗鬆症の患者さんはどのくらいいるのでしょうか?実際には数えられませんのでさまざまな方法で推計することになります。例えば骨粗鬆症学会の推計では平成17年で1,220万人の患者数とされています。

およそ国民の10人に1人ですね。さて、骨粗鬆症の最大の合併症は骨折ですが、そのうち最も多いのは脊椎の骨折です。その頻度ですが、これは広島市で定期的にデータがとられていて80歳以上の女性では半数近くが脊椎の骨折しています。

今度は見方を変えて「自分が骨折する可能性」を考えてみましょう。一生の内にある疾患に罹患する確率を計算する方法があります。ライフタイムリスクと呼ばれるのですが、これによると50歳の女性の場合で死ぬまでに生じる骨折の確率は、脊椎骨折で37%、大腿骨頸部骨折では22%であり、総合すると、 44%の方に何らかの骨折が起こるとされています。こう考えると骨折も他人事ではなくなりますね。

次に骨粗鬆症が起こる仕組みを考えてみます。成人した後も骨は盛んに代謝しています。骨の吸収と形成が同時並行的に進みますが、この両者の釣り合いがとれている間には骨量(骨密度)は保たれます。しかし、このバランスが崩れて骨吸収が勝ると徐々に骨量は減っていきます。骨のなかには細かい梁(はり)が縦横に走っています。骨粗鬆症ではこの骨梁に途絶が生じるために強度が低下し骨折しやすくなるのです。

 

骨粗鬆症は怖い?

骨粗鬆症は怖い病気でしょうか。今日は「寝たきりにならないための」骨粗鬆症の話と冒頭に述べました。事実、女性が要介護になる原因の第1位は骨粗鬆症による骨折です。一方、男性の場合は脳卒中が第1位となりますが同じ寝たきりでも原因によって様相が異なります。つまり、骨粗鬆症で骨折するということは昨日まで元気だった人もある日突然、動けなくなる可能性もあることを意味するのです。本人も家族も心理的にも経済的にも準備ができていません。

徐々に弱って寝たきりに移行することが多い脳卒中や老衰と、この点で異なります。寝たきりだけではなく死亡率も高くなることが知られています。大腿骨頸部骨折では受傷後5年間の死亡率は大体20.30%といわれています。最もありふれた脊椎の圧迫骨折も実は大腿骨頸部骨折と同等かそれ以上の死亡率とされています。これらの骨折で身動きがとれなくなるとさまざまな合併症が続発するからなのです。

 

骨粗鬆症は痛いか

ところで、骨粗鬆症の骨折はすべて痛いのでしょうか?脊椎圧迫骨折に関していえば痛みを伴うのは半数~3分の1程度といわれています。多くの患者は自分の背骨が折れていることに気づいていない可能性が高いのです。このため学会が定めた治療のガイドラインでは4cm以上の身長低下や体重51kg未満、歯が 20本未満などの身体的特徴があれば積極的にレントゲンや骨密度の検査をするように提唱しています。

 

骨粗鬆症の診断は?

次に、その検査をした場合に診断をつける方法です。原則的には骨密度を測って若いころ(女性なら20.44歳)の平均的骨密度の70%未満なら骨粗鬆症とされます。また既に軽微な外力で骨折した人は70.80%の骨密度でも骨粗鬆症と診断されます。

 

骨粗鬆症の治療法は

最初に述べたように骨粗鬆症には治療法があります。治療の目的は骨折の予防ですが、最近は非常に効果的な薬剤が使えるようになってきました。海外では治療効果が上がったことにより人口ベースで骨折数が減少したとの報告も出始めています。代表的なものはビスフォスフォネートと呼ばれる飲み薬です。骨吸収を抑制して骨密度を増やす働きがあります。極めて有効な薬ですが服用の際の約束事が多く、なかなか継続できない患者さんが多いのは残念です。

もっと飲みやすいSERMという薬もあります。女性ホルモンの作用の内、骨に有用な働きのみをするように合成された薬剤です。海外では乳がんの予防薬としても承認されています。ただし人によっては骨折予防効果がやや弱いことがあります。どの治療法でも継続しなければ意味が無いことを特に強調しようと思います。

 

食事や運動による予防効果はあるか

最後の疑問、食事や運動で骨粗鬆症は予防できるのでしょうか?飽食の現代にあっても各年代で骨の維持に必要なカルシウムとビタミンDの摂取量は不足しています。しかし、食事や運動で骨密度を上昇させる最大の機会は中学~高校くらいまでの年齢です。高齢になってからの運動や食事療法は骨密度の維持程度の効果にとどまりそうです。

むしろ、これらに気をつけて規則正しい生活をすることは身体能力を維持し転倒予防の一助になる可能性があると思います。

いろいろ述べてきましたが骨粗鬆症の治療はいかに骨折を起こす前に始めるかがポイントです。このために定期的な検診をお勧めします。病気のことを理解して正しく予防すれば骨粗鬆症は怖くありません。