東北厚生年金病院
副院長 遠藤 実 先生
とき:平成19年12月20日午後1時30分
ところ:仙台市医師会館2階ホール
第369回市民医学講座で「脳卒中になったとき」の題で話したので、今回は脳卒中にならないようにするための話をします。
まず、脳卒中の復習をして、ついで今話題のメタボリックシンドロームについて説明します。最近はマスコミでもメタボで通用するので、以後メタボと略します。次に脳卒中とメタボの関係、最後に特定健診について説明します。これはメタボ対策であり、メタボを改善させて、脳卒中などの血管障害を減らそうというものです。
Ⅰ)脳卒中のまとめ
脳卒中は脳の血管の病気で、代表的なものとして脳梗塞、脳出血、くも膜下出血があります。脳卒中全体としては死亡率は減じていますが、脳梗塞は増加しています。問題は、死亡率は減じても、「寝たきり」の原因の第1位であり、35%を占めていることです。最近の進歩として、発症3時間以内の脳梗塞ではt- PA治療が可能になり、劇的な改善の得られる場合があります。脳卒中が疑われたら、早く病院に行きましょう。ただし、急性期治療はまだまだ不十分です。脳卒中にはならないことが肝心です。
脳卒中の症状についてまとめます。病変が大きいか小さいか、脳の右にあるか左にあるかで決まってきます。小さい場合、脳病変の反対側の麻痺だけですが、大きい場合は、左側障害では失語症が加わり、右側障害では左半側無視が加わります。左半側無視というのは自分の左半身や左の世界に注意が向かなくなってしまうもので、大変困った症状です。
脳卒中の危険因子として高血圧症、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病が挙げられます。肥満のみでは重大な危険因子ではありませんが、肥満に生活習慣病が重なると、死の四重奏やシンドロームXという恐ろしそうな病名が付き、いまにも脳卒中になりそうです。
Ⅱ)メタボリックシンドローム
この恐ろしい病名の日本語版が内臓脂肪症候群で、メタボリックシンドロームとほぼ同じものを指します。メタボは恐ろしいのです。過食や運動不足が元で内臓脂肪が蓄積、これに生活習慣病が複数発症した状態がメタボです。臍レベルのCTスキャン断面で100cm2以上では危険因子が増え、心血管系障害のリスクが高くなります。また、内臓脂肪の量と腹囲の関係では100cm2が男性の腹囲85cm、女性では90cmに相当するとされています。メタボの診断基準を表1に示します。
Ⅲ)メタボと脳卒中
まだメタボが注目される前、私の外来通院中で、気になる患者さん達がいました。見るからに「肥満」で、高血圧と糖尿病の合併、いくら注意しても、返事は良いが改善しない。ほとんどの人が数年後に再発あるいは亡くなりました。今思えばメタボだったのです。もっと厳しく指導すべきだったと反省しています。メタボの人では心血管系疾患の危険度が1.8倍も高いといわれています。
Ⅳ)特定健診と特定保健指導
平成20年4月から、40歳から74歳までの全員を対象に特定健診が開始されます。これはメタボとその予備群を選び出すものです。これでメタボに該当した人が保健指導の対象になります。動脈硬化による病気の予防が目標ですが、その基本が内臓脂肪を減じることです。保健指導の内容は、不規則な食事、運動不足、喫煙、飲酒などの生活習慣の改善にあり、異常の度合いにより、積極的支援、動機づけ支援、情報提供に分けられます。内臓脂肪を減じるために、適当な運動をすること、食事療法をすることです。運動の目安としては、万歩計で、男性は9,200歩以上、女性は8,300歩以上がすすめられます。食事の注意点としては規則正しい食事、ゆっくり良くかんで、腹8分目などが挙げられます。
体重が1kg減じるとウエスト周囲径が1cm減ります。ウエスト周囲径をまめに測って、「内臓脂肪の蓄積」を確認し、内臓脂肪を減らす努力をしましょう。メタボの改善は脳卒中だけでなく、心筋梗塞の予防にもなります。一石二鳥です。
表1 メタボリックシンドローム診断基準 |
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