第418回市民医学講座:心房細動対するカテーテルアブレーション

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仙台市立病院循環器科
医長 八木 哲夫 先生

 

とき:平成20年1月17日午後1時30分
ところ:仙台市医師会館2階ホール

 

 

  

心房細動に対するカテーテルアブレーション
-経皮的カテーテル心筋焼灼術-

心房細動の発生起源となる心房性期外収縮の起源の90%以上が肺静脈にあることが報告された。その後の研究から、心房細動のトリガーとなる発作性期外収縮のみならず、心房細動の原因となる細かなリエントリー性頻拍の多くが肺静脈内の肺静脈・左心房の接合部に存在するとされている。

さらに、心房細動を維持する基質も同部に存在する場合も多々みられることから、肺静脈・左房接合部の電気的な処理が心房細動に対するカテーテルアブレーションのポイントである。 心房細動に対するカテーテルアブレーションは、現在大まかに以下の方法がある。

 

  1. 肺静脈電気的隔離法:肺静脈入口部にカテーテルを留置して、そこから記録された肺静脈の電位を円状にアブレーションして、肺静脈を左心房から電気的に隔離する方法。
  2. 広範囲拡大肺静脈隔離術:左右の4本の肺静脈のうち、左の2本、右の2本をそれぞれ肺静脈開口部よりも左房側で楕円状にアブレーションを加え、肺静脈を電気的に隔離する方法。
  3. 非常に不規則な電位が記録される部位に通電する方法:心房細動の基質となる主に左心房筋への通電を繰り返す方法。

 

当科の心房細動に対するアブレーションの方法および成績

筆者は2年前から心房細動のアブレーションを始め46例に対し行った。

近年、発作性心房細動を中心としたアブレーションから、一過性心房細動や慢性心房細動にも適応症例が拡大している。慢性心房細動の場合、4本の肺静脈の電気的隔離だけでは、成功率が5割以下であり、拡大隔離術+αが求められる。当科では、広範囲拡大隔離術を Electroanatomicalmapping system(カルトシステム)を用いて行うことを基本としている。

このシステムを用いて行うことで、個々の4本の肺静脈をそれぞれ電気的隔離を行う方法よりも、レントゲン透視時間が短縮され、目に見える形で肺静脈を囲むように順に通電していくことになるので、手技的に簡便になったが、左心房を広範囲にわたり線状にアブレーションすることになるので、通電回数はかなりの回数となる。

カルトシステムは、患者の背部に設置した3カ所からの磁場を心臓内のカテーテルが補足して、ミリ単位の3次元での位置と心臓内の電気興奮の流れを示すことができる機器で、当科では2000年から導入している。要するに、非常に高精度なカーナビに電気興奮の流れを示すものがついたと考えるとわかりやすいと思う。

広範囲拡大隔離術は、通電回数が増えるため脳梗塞の合併症が多くなることが予測され、術中にヘパリンを多量に投与する必要がある。ACT (activated coagulation time)を常に300秒程度にコントロールしている。そうなると出血性の合併症の頻度が高くなり、初期の症例で2例の心タンポナーデを経験している。両症例とも心嚢穿刺のみで回復した。他の合併症は大腿穿刺部の大きな血腫と急性心膜炎をそれぞれ1例経験した。

心房細動のアブレーションの合併症は、脳梗塞、左房・食道ろう、横隔膜神経麻痺、胃への副交感神経損傷による胃摘出、肺静脈狭窄、大動脈損傷など、重篤な合併症が報告されているが、幸い今のところ経験はない。

心房細動の場合、多くの施設で、最初のアブレーション時に、4本の肺静脈と左房間の電気的隔離に成功しても約半数の症例で、心房細動の再発がみられ、2回目のアブレーションを3~6カ月後に行うことが多い。当科は一度目のアブレーション後に抗不整脈薬を投与することがほとんどで、今のところ一度のアブレーションでの成功率(薬剤併用)は87%(40 / 46例)である。

 

当科の心房細動に対するアブレーションの現状

発作性心房細動で症状が強い場合が現時点の適応であるとされている。心房細動のカテーテルアブレーションということが知られるとともに、当科に多くの患者さんをご紹介いただくようになった。当科では、現在まで約1,400例、昨年(2007年)も154例と県内では一番多くのアブレーションを経験しているが、心房細動のアブレーションの手技は、他の頻拍性不整脈に比べると煩雑である。

通常、1本のアブレーションカテーテルのほか、2本のリング状カテーテルを心房中隔穿刺を行った部位から左房に挿入し多量のヘパリン投与下で、左心房全体をなめるようにカテーテル操作を行い、約50回程度の通電を行う。患者さまの受ける侵襲も他の頻拍性不整脈のアブレーションよりも大きい。

器質的心疾患を伴う命にかかわる心室頻拍のアブレーションや既に確立した治療となっている発作性上質性頻拍、心房粗動、器質的心疾患のない心室性頻拍、心室性期外収縮などに対するアブレーションとは異なり、脳梗塞を回避するためにワーファリンを中心とした内科的治療も可能であることを十分に説明し、治療を希望されるときのみ行うこととしている。前述したように、手技の難度が高く、大きな合併症もあることから、ルーチンに心房細動のアブレーションを行っている施設は東北地方で数施設しかないのが現状である。

 

今後の展望

近年は、一過性心房細動や慢性心房細動のアブレーションに対する議論が多い。肺静脈広範囲拡大隔離術を基本とし、多部位への線状アブレーションや非常に不規則な電位がみられる部位へのアブレーションなどが行われているが、いまだ確立されていない。

本年から、カルトシステムのニューバージョン(CARTO X-P)が認可され、現在の欧米の最新システムと同一バージョンとなった。東北地方では、弘前大学と当科で使用している。従来のシステムにCTやMRI画像を重ねあわせることができ、正確に通電部位を確認できることから、安全性が高まり、成功率が上昇することが期待
されている(図)。

 

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