第420回市民医学講座:仙台のお産事情

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仙台赤十字病院 第一産婦人科
部長 谷川原 真吾先生

 

とき:平成20年3月8日(土)午後1時30分
ところ:仙台市医師会館2階ホール

 

 

  

最近の分娩数は年々減少傾向にあるが、不妊治療の進歩などによりハイリスク妊婦や低出生体重児の割合は増加してきている。一方産婦人科医や分娩取扱施設の減少により地域での産科医療の崩壊が危惧されている。

今回日本の周産期医療の現状について解説し、安全で快適なお産を目指して仙台市で導入された産科セミオープンシステムについて紹介する。

【日本の周産期統計と分娩の安全性】

日本の周産期医療はこの半世紀の間に目覚ましい進歩を遂げ、今では世界で最も安全にお産ができる国の一つとなっている。50年間の間に分娩数は半減したが、母体死亡は約80分の1、新生児死亡は約40分の1に減少した。早産や低出生体重児は増加しているが、特に28週未満の超早産は約2倍、1,000g 未満の超低出生体重児は約30倍にも増加し高次周産期医療施設の過重な負担につながっている。また晩婚化少子化に伴い高齢妊娠は約2倍に増加している(表1)。

表1 50年間の日本の周産期統計の推移
分娩数       :半減
母体死亡      :約1/80に減少
新生児死亡    :約1/40に減少
早産         :増加
超早産       :約2倍
低出生体重児   :増加約30倍
超低出生体重児 :約2倍
高齢妊娠

分娩の安全性を妊産婦死亡からみると、最近では年間約110万の分娩で、60人前後の母体死亡が報告されている。出生10万に対する妊産婦死亡率は平成 17年には5.8で世界平均の400に比べ非常に優秀な成績となっているが、学会の調査によれば死亡数の約70倍、年間約4,000 ~4,500人の重症で死に至る可能性のある妊婦が管理救命されていることが明らかになった。これは分娩そのものに10万件あたり400人が亡くなるリスクがあるが、わが国では適切な産科管理により70分の1に減らしていることを示している。今後もこの水準を維持していくためには、妊婦さん自身が分娩のリスクについて正しく理解し、妊婦健診等の管理を受けることが重要である。

 

【宮城県の周産期医療の現状】

宮城県では現在年間約2万件(仙台市はその半分の約1万件)の分娩がある。県の調査では平成11年から平成18年の間に分娩施設およびそこに勤務する産科医師数は約3分の2に減少した(表2)。この少ない産科医療機関で産科救急に対応するためのネットワークが構築されており、仙台赤十字病院、東北大学病院および県立こども病院を3次医療機関としインターネットで急患受け入れ情報を流し、産科救急患者に対応している。

表2 分娩取扱施設の減少
         平成11年  平成18年
施 設 数    73      55
常勤医師数  160     123
(宮城県の調査より)

 

最近問題となっている妊婦のたらい回しは、ネットワークに乗らない未受診の妊婦であり、母体や胎児の情報がないため受け入れが困難となる。我々が行った調査ではここ数年その数はほぼ横ばいで、宮城県全体で年間60件程度の未受診飛び込み分娩がある。これらの妊婦はハイリスク妊婦や早産が3~4割もあり、社会的経済的問題を抱える妊婦も多い。平成20年度からは妊婦健診の助成制度が拡大されるので、未受診妊婦の減少につながるものと期待している。

一方健診を受けていても早産のリスクや母体、胎児の病気のために高次の産科医療機関に搬送される妊婦も少なくない。母体搬送の総数は年間約300件で、そのほとんどを仙台市内の医療機関が受け入れている。

これは60人に1人の妊婦が搬送を受けていることを示している。仙台赤十字病院でも年間約120件の母体搬送を受け入れているが、受け入れ依頼の約6割しか収容できず、産科救急ネットワークの情報を利用して次の受け入れ先を決めている。

しかしNICUが満床などの理由で遠く山形や福島まで搬送される例が年間5例ほどある。また産後の母体救命のための搬送が年間20例程度(妊婦1,000人に1人)ある。

 

【仙台の産科セミオープンシステム】

 

仙台市においても分娩取扱施設の減少は深刻で、過去5年間に10以上の施設が分娩を休止し、現在19施設で1万件のお産を取り扱っている。特に大病院に分娩が集中し、そこで働く勤務医の負担が重くなってきている。

そこで「妊婦健診は通院が便利な近所の診療所で、お産は設備が整った分娩施設で」というコンセプトの下、平成17年から産科セミオープンシステムをスタートさせた。分娩取扱施設は仙台医療センター、仙台市立病院、東北大学病院、東北公済病院、 NTT東日本東北病院および仙台赤十字病院の6病院とし、健診施設は仙台市医師会所属の産婦人科開業医とした。

医療施設間の連携を効率よく行うために妊婦健診を標準化し、共通診療ノートに所見を記載し患者情報を共有化した。またシステムに参加する医師のレベルアップのため勉強会を行い、産科医療の質の向上を目指した。夜間休日の救急は分娩施設が責任を持って対応する取り決めとしたため、患者さんは安心して自宅や職場の近くの診療所で平日午後や夕方、土曜にも妊婦健診を受けられるようになった。平成19年からは妊娠リスクスコアを共通診療ノートに追加し、妊婦さん自身にリスクを評価してもらい、自分のリスクに見合った適切な施設で健診を受けてお産をするよう指導している。そして平成19年度には産科セミオープンシステムを利用して分娩された妊婦さんが、分娩施設での総分娩数の約4割、仙台市の分娩の約2割に達し、分娩の一つの方法として市民の間に定着してきた。

分娩にかかわる産科医の増加がすぐに望めるわけではなく、しばらくの間は医師の集約化で分娩施設を維持し、連携を密にすることで産科医療の質を下げない必要がある。また妊婦さんも妊娠リスクスコアなどを利用して自身のリスクを評価し、リスクの低い人は診療所での健診分娩もしくはセミオープンシステムを利用した分娩を選択し、リスクの高い人は病院での健診分娩を選ぶようにしていただきたい。安全で快適な分娩を目指して今後も市民、行政と一緒に努力していきたい(図1)。

 

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