第426回市民医学講座:市民が支える仙台市の救急

426-1.JPG仙台市医療センター仙台オープン病院       救急センター長                茂泉 善政 先生

 

とき:平成20年9月18日 午後1時30分              ところ:仙台市医師会館2階ホール                                                                               

 

 

 

 

市民が支える仙台市の救急

1.救急の現状 
消防庁の『平成19年版救急・救助の現況』(図1)によれば、平成18年度の救急車出動回数は5,240,478件で搬送人員数(転院搬送を含む)は4,895,328人におよび年々増加傾向にあります。救急搬送された患者の45%は65歳以上の高齢者で52%は入院加療を要しない軽症患者でした。また全国の1日平均の救急患者総数は82,200人で非常に多くの患者が救急受診している実態が報告されています。こうした現状に対し医療側には「軽症なのだから日中受診すればいいのに」との思いがありますが、患者・家族側は「軽症/重症の区別ができない」と反論し両者の言い分には大きなギャップが見られます。新聞・テレビ等で報道されているように救急医療の現状は「医療現場の疲弊」や「若手医師の救急離れ」といった崩壊の危機にあります。まずは市民一人ひとりがこうした救急の現状を認識することが必要です。

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2.救急は地域医療
仙台市は初期から三次救急にいたる救急体制の円滑化を目的に「病院群当番制事業」を行っております。この事業では図2のように初期救急から三次救急までの役割分担が示されていますが、その根幹は救急医療の要ともいえる二次救急医療の強化にあります。全国的には二次救急病院の減少、三次救急への軽症患者集中、救急搬送の受け入れ困難事案の多発が問題となっております。宮城県/仙台市も例外ではなく、昨年の宮城県内の救急搬送例8,235例の調査では4回以上の照会事例が509件、最大22回の照会事案が発生し、その多くは仙台市の事案でした。仙台市はほかの政令指定都市に比べ当番病院が7病院と少なく、当番病院が物理的にその役割を十分果たせない結果と推察されます。協力病院(14病院)が当番病院にはならない主な理由は①専門医による救急診療を求める人も多く訴訟のリスクも高い②アルコール中毒、薬物中毒、寝たきりの患者等社会的問題を抱えた患者や不払い等モラルにかけた患者も多い③救急は人件費もかさみ不採算部門となりうる等です。福祉の関与・介入や行政による財政支援とともに、市民の救急医療に対する理解とモラルの向上が求められています。

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3.トリアージ
トリアージは医療倫理における分配的正義原則に基づいた概念で、フランス語のtrier(分別する)に由来する言葉です。災害のみならず日常の救急医療の現場でも救急搬送手段・搬送先の決定(フィールド・トリアージ)や救急外来での診察順番の決定(受付トリアージ)、さらには治療の順番の決定(医師トリアージ)に応用
されております。こうしたトリアージの概念を救急車出動に応用するのが電話(119番)トリアージです。政令指定都市(札幌、仙台、横浜、京都)での9,097例の検証では、緊急性の高い事例(赤)は77.7%でしたが搬送不要とされた事例(緑)は1例のみで、また事後検証で31
例はアンダートリアージとされました。この結
果からはその運用に当たってはまだまだ精度の向上が必要と思われます。また市民には場合によっては救急車がこないといった不安やずるい人は病状を重く報告する等の懸念が生じます。こうした懸念を取り除く努力と電話トリアージの有用性を広く市民に理解してもらうことがまず必要です。さらに実際に救急車が出動しなかったため重篤な後遺症を起こした事案も発生しており、こうした事案ではその法的責任が問われています。現状では解決されなければならない問題も多いのは事実ですが、救急搬送の問題解決の一方策として将来的には運用されるべ
きものと考えられます。

 

4.病院前救護(プレホスピタル・ケア)
仙台市の心肺停止(CPA)事例は年々増加し平成18年度は約700例に達しています。その多くは60歳以上の高齢者で入浴や排便時に起こっております。CPAは不可逆的な「死」ではなく迅速な心肺蘇生で回復する可能性がある状態であり、迅速な心肺蘇生術や除細動が救命率を向上させることもよく知られた事実です。しかし脳の回復限度時間は5分と短く、それ以上の時間では重篤な脳障害を来してしまいます。一方、仙台市の救急隊活動を検証すると覚知より現着まで平均6.7分要しており、救急隊が5分以内に患者に接触することは物理的に困難な場合が多いと推察されます。救命率向上のためには居合わせた人(バイスタンダー)による心肺蘇生が重要で、実際市民によるバイスタンダーCPRで病院死亡率は低下し生存退院率は上昇したとの
報告もあります。仙台市消防局では市民を対象に救命講習会を開催してきており、平成19年までに202,548人が受講しております。バイスタンダーCPRは「自分の家族をも救う」必須のものですので多くの市民に受講していただきたいと思います。