第429回市民医学講座:私はがんなのでは?

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東北大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科講師

志賀 清人 先生

 

とき:平成20年12月18日(木)午後1時30分

ところ:仙台市医師会・仙台市急患センター

     2階ホール

 

 私はがんなのでは?~口やのどのがんを疑ったら~

本日はお集まりいただきありがとうございます。
これから、口腔(口)と咽頭(のど)のがんについて、1.どのようなものか? 2.どこにできるのか? 3.どうしてできるのか? 4.どのように治療するのか?についてお話ししたいと思います。

はじめに解剖のお話を少しさせていただきます。口腔は6つの亜部位に分かれており、それぞれ舌、頬粘膜、硬口蓋(口の天井を形成している骨の部分)、上歯肉、下歯肉、口腔底と呼ばれています。この中でもっともがんが発生しやすいのは日本人の場合は舌で舌がんと呼ばれています。咽頭は上・中・下3つに分かれています。簡単に言えば、口をあけて奥に見える部分が中咽頭、その上方で鼻腔の後方に位置するのが上咽頭、下方で喉頭の後方に位置し、頸部食道に連続しているのが下咽頭ということになります。中咽頭はいわゆる扁桃腺が外側方に存在し、ここが中咽頭がんの好発部位になります。軟口蓋(口の天井を形成している骨のない部分)、舌根も中咽頭に分類されます。下咽頭は梨状窩、輪状後部、後壁に分類され、この中では梨状窩ががんの好発部位で、特にヘビードリンカーが多く、輪状後部がんは飲酒歴のない女性に多い傾向があります。

口腔がんと間違われやすい疾患がいくつかあります。炎症性疾患では舌炎、潰瘍を形成するアフタやのう胞を形成する小唾液腺の貯留のう胞、種々のウイルス感染症、特殊な感染症として結核、梅毒、AIDSなどがあり、特にAIDSには口腔カンジダ症が必発と言われています。前がん病変として白斑症があります。口の中に白い斑状の部分ができますが、必ずしも全部ががんになるわけではありません。しかし、一部でがん化する場合がありますので、注意深い観察が必要です。口腔がんの好発部位は舌ですが、ほとんどが歯と接触するヘリのあたり(舌縁)にできます。舌がんをはじめとする口腔がんの写真(図1、2)をお見せしますが、ごらんのように隆起型から潰瘍形成するものまでさまざまの形があります。

 


 

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図1

 

 


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図2

ごらんになって気がつかれた方もいらっしゃると思いますが、がんの患者さんは口の中が汚く、虫歯が多いという傾向があります。これが口腔がんの原因のひとつではないかと考えられています。口腔がんの症状としては、口腔違和感、疼痛・嚥下時痛、出血、構音障害、開口障害、頸部腫瘤(リンパ節転移)、嚥下困難などがあります。

上咽頭がんはEBウイルスというウイルスの一種が感染しがん化すると考えられています。日本人には少ないのですが、中国南東部では非常に多数発生し、好発地域となっています。化学放射線治療が著効を示す疾患ですが、ここでは詳しく述べません。

中咽頭がんの症例をお見せしますが、隆起型(図3)から潰瘍型まで多様な形を示します。

 


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図3

注意しなければいけないのは、扁桃腺はリンパ組織なので、扁平上皮がんばかりではなく悪性リンパ腫というリンパ球のがんができることがあるということです。扁平上皮がんの患者さんはヘビードリンカーがほとんどです。アルコールが口腔、中咽頭がん、下咽頭がん、食道がんのがん原物質と考えられています。
 

下咽頭がんの例をお見せしますが、注意すべき点は多重がんと呼ばれる他臓器や同部位に別物のがんができている例が非常に多いことです(図4)。

 


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図4

東北大学の症例では下咽頭がんとして紹介された患者さんの4人に1人以上が同時に多重がんを持っています。特にヘビードリンカーが多いことから食道がんの合併が多く、治療前の全身検索として上部消化管内視鏡(胃カメラ)が必須です。最近では早期がんが多くなってきましたが、特に梨状窩にできるがんは大き
くなるまで症状が出ないことが多く、予後が不良である一因となっています。

中・下咽頭がんの症状としては咽頭違和感、咽頭痛、嚥下時痛、出血(血痰)、構音障害、嚥下障害、頸部腫瘤(リンパ節転移)などですが、下咽頭がんになるとこれに呼吸障害、しわがれ声など喉頭圧迫あるいは浸潤の症状が加わります。 

これらのがんの治療は手術、放射線治療、化学療法の3者の単独あるいは組み合わせで行うことになります。しかし、国立がんセンターをはじめ多くの施設では上咽頭がんを除いて基本的には手術が第一選択となります。これは将来発生するかもしれない多重がんのことを考えると合理的といえます。しかし、扁平上皮がんは放射線に対する感受性が高いことから、場合によっては放射線治療と抗がん剤を使った化学療法を組み合わせることにより治療を行うことがあります。

外来では、のどの異物感など咽喉頭異常感を訴える患者さんが多く受診されます。その多くが自分はがんではないかと心配してこられます。しかし、そのほとんどはがんではありません。では何かというと、最近の研究でこれらの多くが実は逆流性食道炎から由来した咽喉頭酸逆流症による症状ではないかという臨床統計が出てきました。逆流性食道炎の治療薬であるプロトンポンプ・インヒビターを服用することにより、多くの場合、咽喉頭の所見や自覚症状が改善します。

以上、口とのどのがんについてお話しさせていただきました。これまでのお話で、もしがんを疑うような症状があるようでしたら、最寄りの耳鼻咽喉科の先生を受診して診察してもらってください。疑わしい場合は東北大学病院や宮城県立がんセンターなどのがん専門施設へ紹介していただけると思います。