第436回市民医学講座:更年期とメタボリックシンドローム

0905.JPG東北大学大学院医学系研究科

先進漢方治療医学講座(産婦人科)

准教授 武田 卓 先生

 

と き:平成21年7月16日(木)午後1時30分

ところ:仙台市医師会・仙台市急患センター

     2階ホール

 

 

更年期とメタボリックシンドローム

(とっても大事な更年期のお話)

Ⅰ はじめに

女性にとっての「更年期」というと日常生活に対する障害の強さから、「更年期障害」のイメージが強いと思われます。更年期以降は女性にとっての第二の人生のスタートともいえ、日本人女性の平均寿命が85歳を超えている現状を考えますと、この時期をいかに健康に過ごしていくかは、非常に重要なことだと思われます。「メタボリックシンドローム」は動脈硬化のハイリスクとして、最近非常に注目を集めています。そこで、本日は意外と知られていない、更年期とメタボリックシンドロームの関係についてのお話をしたいと思います。

Ⅱ 更年期とは

更年期とは、月経が乱れ始めてから、閉経をはさんでその後数年たって卵巣から女性ホルモン(エストロゲン)がまったく分泌されなくなるまでの時期と定義され、およそ42歳から56歳ころをさします。更年期には、更年期障害としてさまざまな症状が現れますが(図1)女性ホルモンの作用の多さの裏付けといえます。更年期障害の治療としては、ホルモン補充療法が用いられ、症状改善には非常に有効ですが、2002年に発表されたWHIの大規模臨床試験の結果より、心臓発作・脳卒中・静脈血栓症・乳がんの発症リスクを高めるため注意が必要とされています。その後の検討により、現在では日本産婦人科学会などのガイドラインではホルモン補充療法について以下のような方針となっています。①更年期障害に対しての第一選択の治療として行う ②5年間は乳がんの発症率を増やさないので、5年を一つの目安にする ③閉経後10年以内では冠動脈疾患を増やさない、投与方
法の違い(経皮投与)により副作用がでないなど患者に個別化した対応が必要。


0901.JPGⅢ メタボリックシンドロームとは

最近、過食・運動不足・ストレスなどの生活習慣の乱れから、内臓に脂肪がたまる「内臓脂肪型肥満」が注目を集めています。「内臓脂肪型肥満」の方は、血圧、トリグリセリド(TG)、血糖値などが「やや高め」になる場合が多く、これらの「やや高め」が重なりあうことにより、動脈硬化の危険性が高まることがわかってきま
した。このような状態をメタボリックシンドロームと呼んでいます。日本での診断基準を図2に示します。メタボリックシンドロームが怖いのは、危険因子が重なるほど脳卒中・心疾患の発症危険が増大し、危険因子が0個の場合と3~4個の場合を比較すると冠動脈疾患発症の危険度が約36倍になるとされています。治療に
は、すべての病態の基本となる肥満、特に内臓脂肪を減少させることが大切です。内臓肥満は皮下脂肪に比べて、体重を減らせば減少していきます。
基本は食事と運動の二本柱です。


0902.JPGⅣ 更年期とメタボリックシンドローム

女性ホルモンが低下する更年期は、メタボリックシンドローム発症との密接な関係があります。脂質異常症との関係では、TGは40歳以降に、総コレステロール・LDLコレステロール(悪玉)は50歳以降に上昇し、HDLコレステロール(善玉)は50歳以降に低下します。これは肝臓における女性ホルモンの作用によると考えら
れています。高血圧との関係では、女性ホルモンは血管を拡張させて血圧を下げる作用があります。高血圧の頻度をみると女性の場合は閉経とともに急激に増加することがわかります(図3)。内臓脂肪型肥満との関係では、女性の場合は閉経にともない内臓脂肪が増えるとされています(図4)。原因としては、女性ホルモンには脂肪を内臓につけるより皮下につける作用があること、加齢・閉経にともない活動性が低下することによる相対的なエネルギー摂取過剰などが考えられます。このように、閉経にともなう女性ホルモン欠乏とメタボリックシンドロームとの密接な関連が認められ、ホルモン補充療法がこれらを解決することが期待されます。残念ながら、前述のWHI研究をうけ、現状では心血管疾患の予防および治療のみの目的でホルモン補充療法を行ってはならないとされています。ただし今後の検討(投与対象の細分化、投与法の変更、新しい薬剤の登場など)により、これ
らの方針は十分変化しうると思われます。更年期は更年期障害のイメージが強いですが、メタボリックシンドロームに対する動機づけとして、更年期をきっかけとして自分の体の健康に対して関心を持ちましょう。

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