第441回市民医学講座:カプセル内視鏡とバルーン内視鏡

H21.12市民医学講座 003.jpg仙台厚生病院消化器内科

部長 松田 知己 先生

と き:平成21年12月17日(木)午後1時30分

ところ:仙台市医師会・仙台市急患センター

     2階ホール

 

 

 

カプセル内視鏡とバルーン内視鏡 

-暗黒大陸小腸疾患の診断と治療-

消化管の中でも小腸は”暗黒大陸” と呼ばれてきたように、胃や大腸と違い内視鏡検査が困難な場所で、確定診断がつけられないまま手術に移行したケースも多かった。しかし以下に述べるカプセル内視鏡およびバルーン内視鏡の登場により小腸の診断・治療は劇的な変化をとげた。

カプセル内視鏡は2001年ギブン・イメージング社製のPillCam® SBが欧州、米国で承認、販売されてから遅れて2007年10月ようやく日本で保険適応となった。さらに2008年10月オリンパス社製EndoCapsule® が初の国産カプセル内視鏡として販売認可された。現在カプセル内視鏡の保険適応としては、上部および下部消化管の検査(内視鏡検査を含む)で出血源不明の消化管出血にかぎられている。しかし、腹部エコー・CT・小腸X線検査などの画像診断で小腸由来の腫瘍が疑われるものや、炎症性腸疾患に対しても有用性が報告されている。

カプセル内視鏡検査に際しては、以下の3つの機器が必要である。

カプセル内視鏡本体
長さ26mm、幅11mmの大きさで、消化管の蠕動運動で体内を移動し、1秒に2枚の画像を撮り、体外の受信機に画像信号を送信する。

データレコーダー
患者に取り付けたセンサーアレイを通してカプセル内視鏡から送信される画像データを受信・記録する。

解析システム
検査時間約8時間の記録後に画像データを解析システムにダウンロードして画像診断を行う。

検査手順は、施設間でまだ一定していないものの、検査の前日は検査12時間前から絶食とし、検査当日は消泡剤や腸管洗浄液(500cc程度)を内服してもらうことが多い。カプセル内視鏡を飲み込んだ後、2時間後から飲水可で、4時間後から食事摂取可能となる。記録中は、取り付けた機器が外れる可能性があるような激しい運動やMRI検査は避けなければならないが基本的には特に行動制限はない。カプセル内視鏡内服後、約8時間でデータレコーダーとセンサーアレイを取り外し、レコーダーから解析システムに画像データをダウンロードして担当医が画
像診断を行う。外来の場合は後日結果の説明を行う。カプセル内視鏡の禁忌としてはカプセルが通過しないような狭窄が疑われる場合やMRI検査などがあげられるが、安全性が確立されていないという点では小児・妊婦、ペースメーカー装着者なども注意を要する。偶発症としてはカプセルが狭窄部あるいは憩室などのために2週間以上体内にとどまっている「滞留」があるが、頻度的には約0.04%と報告されている。ヨーロッパなどでは「パテンシーカプセル」という内服後ある一定期間で溶解してしまういわばダミーカプセルがあり、狭窄が疑われる場合は検査前に飲ませて狭窄の有無を調べてから検査している。しかし、日本ではまだ使用できず他の検査で狭窄の有無のチェックが必要である。滞留の場合は外科的に摘出あるいはバルーン内視鏡で回収する必要がある。

一方バルーン内視鏡はダブルバルーン内視鏡として、2001年自治医科大学の山本らにより報告され、2003年に一般市販された(フジノン東芝ES社製)。機器としては先端にバルーン装着可能な細い内視鏡とバルーン付きのオーバーチューブおよび内視鏡とオーバーチューブの先端のバルーンを拡張・収縮させるバルーンポンプコントローラーからなる。内視鏡とオーバーチューブのバルーンを交互に拡張させ、腸管を短縮させながら、いわば「しゃくとりむし」のように深部へ進んでいく。また内視鏡を挿入する方向としては口からと肛門からの2つがあり、目的に応じどちらかを選択あるいは組み合わせて小腸を観察する。

バルーン内視鏡の適応は、カプセル内視鏡より広く①上部および下部消化管検査で出血源不明の消化管出血・貧血以外に②腹部エコー検査・CT検査・小腸X線検査などで小腸由来の腫瘤が疑われるもの③原因不明の腹痛・イレウス④炎
症性腸疾患の精査などがある。

現在はオリンパス社製のバルーン内視鏡であるシングルバルーン内視鏡も市販され使用されている。偶発症としては通常内視鏡と同様に穿孔・出血などのほかに、特有の偶発症としてオーバーチューブの巻き込みによる腸管損傷、口からの挿入の際に膵臓に対する間接的な刺激の可能性が原因と考えられている膵炎などがある。

カプセル内視鏡とバルーン内視鏡のどちらが選択されるかは、両検査の有利な点、不利な点を考え、その患者さんの臨床所見により決められる。

カプセル内視鏡の最大の利点は、検査の負担が軽く外来で可能という簡便性にあり、一方バルーン内視鏡の最大の利点は病気が発見されたとき、その場で診断確定のために生検(組織を採取する)および止血を含めた内視鏡治療が可能であるという点である。

今後はさらなるカプセル内視鏡の発展・読影支援システムの普及などにより消化器専門医不在の診療所などでも、一定レベルの消化管内視鏡検査が苦痛なく簡単にできる時代がくるかもしれない。