第444回市民医学講座:身近な病気、緑内障について

20.11.26 020.jpg東北大学病院眼科

准教授 布施 昇男 先生

と き:平成22年3月18日(木)午後1時30分

ところ:仙台市医師会・仙台市急患センター

     2階ホール

 

 

 

 

 

身近な病気、緑内障について

【緑内障とは】
緑内障は、紀元前4~5世紀ごろには最初の記載がヒポクラテスによってなされた、一般的によく名前の知られる疾患です。「瞳孔が海の色になると視力が強く障害され、多くの場合、他眼の失明が続いて起こる」と記載されています。中国では青光眼と呼ばれ、日本では緑内障と呼ばれますが、これはオランダ西洋医学の流れから来ていると思われます。見る、聴く、嗅ぐ、触る、味わう、私たちは五感によって世界を知りますが、なかでも目からの情報は、全体の約80%を占めるといわれています。

緑内障は、視神経線維が萎縮しそれに対応する視野欠損を生じる疾患です。厚生労働省研究班の調査によると、わが国における失明原因の第1位となり、眼科でも社会においても大きな問題として考えられています。しかも最近、日本緑内障学会で行った大規模な疫学調査(多治見スタディー)によると、40歳以上の日本人における緑内障有病率は、5.0%であることが明らかとなりました(図1)。

 


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図1 40歳以上の日本人における緑内障有病率(%)

これは約400万人、40歳以上の20人に1人の割合で緑内障の患者さんがいるということで、同級生に必ず緑内障の罹患者がいる可能性が高いcommon diseaseといえます。その中でも開放隅角緑内障が多く、また大半の開放隅角緑内障は眼圧値が正常範囲内の正常眼圧緑内障であることが日本人の特徴で
す。急性緑内障発作を引き起こす閉塞隅角緑内障は、図1のその他の緑内障に含まれますが、その頻度は意外に高くありません。緑内障の有病率は、年齢とともに増加していくことが知られており、今後ますます患者さんの数は増えていくことが予想される疾患です。しかも上記の疫学調査では、発見された緑内障の患者さんのうち、それまで緑内障と診断されていたのは全体の約10%に過ぎませんでした。つまり、緑内障があるのにもかかわらず、これに気づかずに過ごしている人が大勢いることも明らかとなりました。これは、緑内障は非常にゆっくり進行することが多いため自覚症状が出にくいことにも関係します。

最近の緑内障の診断と治療の進歩は目覚ましく、以前のような「緑内障イコール失明」という概念は過去のものとなってきています。図2右に示したような視神経乳頭がほとんど陥凹している症例が初診として来院されることは少なくなりました。


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図2 視神経乳頭の変化

 

また図3に視野欠損(黒で示してあります)の状態を示しましたが、後期(末期)
の状態ではかなりの視野欠損、視野狭窄を認めます。確かに、治療にもかかわらず失明に至る難治性緑内障が存在しますが、一般に、早期発見・早期治療によって失明という危険性を少しでも減らすことができる疾患です。


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図3 視野の進行

 

【緑内障の治療において重要なこと】
緑内障は、その発症に圧力因子(眼圧)、血管因子(虚血)、遺伝因子、環境因子、加齢などが複雑に絡み合う、多因子疾患と考えられます(図4)。その中でも、緑内障における視野欠損の進行に関する最大の増悪因子は眼圧(眼球内圧)
です。よって、治療のターゲットはまず眼圧下降を目的とします。段階的に、薬物治療、レーザー治療、観血的治療が選択されます。

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図4 緑内障の発症に関与する因子

ご存じのように、残念ながら障害を受けた視神経は再生することはなく、再生医療が適応になるのはまだまだ先のことと考えられます。現在、緑内障で失われた視野や視力は元には戻せません。視神経には約100万本の神経線維が含まれており、正常者でも毎年5,000本(0.5%)程度の神経線維の脱落があります(図5)。
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図5 視神経線維と年齢との関係

緑内障患者では神経線維の脱落が早く、寿命がくる前に日常生活が送れないほどの視力、視野になってしまいます。治療によって、生活可能レベルの視神経を維持することが可能となります。さらには、早期発見、早期治療をすることで日常生活に困らない程度の視野、視力を生涯保持することが緑内障治療においてもっとも重要であるといえます。