第452回市民医学講座:首いた・肩こり・腰痛

国分正一先生.jpg西多賀病院 脊柱脊髄疾患研究センター長

東北大学名誉教授

 国分 正一 先生

と き:平成22年11月18日(木)午後1時30分

ところ:仙台市急患センター・

     仙台市医師会館2Fホール

 

 

 

首いた・肩こり・腰痛の新しい治療

国民10人に1人以上が首いた、肩こり、腰痛に悩まされている。その原因は脊柱にあるとの見解を唱える学者もいるが、公式には原因・機序は不明とされている。これらの症状は自然に生じることが多い。むちうち損傷でも生じ、外傷性頸部症候群と呼ばれ、慢性化すると難治である。筋筋膜痛や線維筋痛症、低脊髄圧症候群などとも診断されてきた。なぜに核心を突く研究がこれまで登場しなかったか。

私は東北大学を定年退職後、約4年半、この問題の謎解きに専念し、解剖を行うとともに外来で臨床データの集積に努めてきた。その結果、神経学的異常のない首いた、肩こり、腰痛、加えてバレー症候群(頭痛・眼精疲労・めまい・耳鳴り)、上肢・下肢の痛み、手足のしびれに特異的な他覚所見があることを突き止めた:①後頭下のK点(胸鎖乳突筋の鎖骨後頭骨(CO)頭の頭側筋腱移行部に相当すると考えられる)に圧痛がある(図1)
②体幹・四肢に広く圧痛が陽性である(図2)③CO頭および体幹・四肢に広く筋腹の圧搾痛が陽性で、筋腹内に筋線維が芯のように硬く触知できる(筋硬症myogelosis)(図3)④筋線維を自動的あるいは他動的に引き伸ばすと激痛が生じる(伸長痛)。片側性あるいは両側性に陽性で、症状側で優位である。

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図1.後方から見たK点とその圧迫
 

頭半棘筋の柱状の高まりを外側にたどると陥凹(風池:黒○)があり、その陥凹の約1cm頭側にK点(白○)が位置する。圧痛陽性例は激痛を訴え、あるいは頭を前上方に動かし回避動作をとる。

 

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図2.K点および関連の圧痛点

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図3.K点に関する圧搾痛の好発筋

教科書がこうした診察法を説いていないために、私自身、以前は多彩な症状を訴えれば不定愁訴として扱い、あるいはエックス線像やMR像に写る脊椎変性や脊髄・馬尾・神経根の圧迫所見を短絡的にその原因と診断するきらいがあった。

忙しい外来であっても、次の手順で診察を進めるとよい。首いた、肩こり、腕の痛み、頭痛など上半身の症状では、①第2中手骨骨幹の背側を圧した後に(無痛)、同骨幹橈側(第1背側骨間筋起始)を圧する(図4)②烏口突起を内下方から圧する ③胸鎖乳突筋(特に後半分のCO頭)を摘み、圧搾する ④K点を圧する(図1)。腰痛など下半身の症状では、さらに⑤脇腹(外腹斜筋)を圧搾し ⑥痛みと反対の方向に腰椎を側屈させて痛み・張りが生じるかをみて ⑦第2中足骨骨幹の背側を圧した後に(無痛)、同骨幹内側(第1背側骨間筋)を圧する。

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図4.第1背側骨間筋起始の圧痛

筋を掌側に押しやりながら、第2中手骨骨幹中央の橈側面を直角に圧する。

中高年者では、肩〜上腕の痛みのために、上肢の挙上困難あるいは背中に手が回らないといった訴えが多い。いわゆる五十肩である。その場合には上記診察手順の①〜④に加えて、⑧広背筋を圧搾する ⑨肩関節の前方挙上の限度から少し下げた位置で、外旋して痛みを誘発する⑩肩関節の90度前方挙上の位置から内転し、内旋を加えて痛みを誘発する。

診断を兼ねた治療法として、K点に1%リドカインを2ml注射すると(K点ブロック)、30分後にほとんどの例で劇的な症状の消失ないし軽快が得られ、同時に上記他覚所見が陰性化する(図5)。その後、1〜2週おきにブロックを行う。若年者、上半身のみの症状、症状の期間の短い例で必要なブロックの回数は少なく、特に十代では1〜2回で緩解が得られる。

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図5.K点ブロックの手技

前額・矢状面・横断面の各面に約45度の角度で刺入する。針先に項筋膜の抵抗を感じた後に針を2〜3mm進め、局麻剤を通常2ml注入する。

これまでに原因不明とされていた幾つもの症状が、上記他覚所見とK点ブロックの効果の視点から考察すると、①筋の機械的刺激に対する閾しきい値低下②トーヌス亢進③伸長性低下の表現であると説明できる。そこで、発症機序が真に解
明されるまで、そうした症状を一括してK点症候群と呼ぶことを提唱している。