第411回市民医学講座:がんによる死亡を防ごう

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宮城県対がん協会 がん検診センター
所長 渋谷 大助 先生

とき:平成19年6月21日午後1時30分
ところ:仙台市医師会館2階ホール

 

 

がんによる死亡を防ごう
-生活習慣の改善と検診の大切さについて-

 

平成16年の人口動態統計概数によると、がんによる死者は320,315人で、全死亡者の31.1%が「がん」で亡くなっています。実に100秒に1人が「がん」で亡くなっている計算になります。男性では肺がんが、女性では肺がんに加えて大腸がん、乳がんによる死亡が増加しています。 

早死に、いわゆる早世(逝)は国の定義によりますと65歳未満で亡くなった人を指しますが、世界で最も長生きするわが国においても、いまだに男性の 20%、5人に1人が65歳まで生きられないことをご存じの方は少ないかもしれません。しかも早世の最大の原因は「がん」です。

 

平成16年の人口動態統計概数

    がんに世よる死者は32万315人
    全死亡者は102万8708人
    がんによる死亡者は全死亡者の31.1%
    100秒に1人が「がん」で亡くなっている
    男性では肺がんが、女性では大腸がん、乳
    がんによる死亡が増加している。

    (男性は女性よりがん死が多い。大腸がんの
    死亡率も男性の方が高いが胃がん死は男性が
    女性の3倍多いので相対的に女性の大腸がん
    死が目立つ。女性も肺がんが増加しているが、
    喫煙率が低いので男性より目立たない。しか
    し、最近、若い女性の喫煙率が増加している
    のが心配だ。)

 

今や2人に1人はがんにかかり、3人に1人はがんで死亡します。働き盛りの死因に限れば2人に1人はがんで亡くなっているのです。 このような状況を踏まえ、今年4月から「がん対策基本法」が施行されています。

30年前、米国は国を挙げてがん対策に取り組みました。その結果、米国では建国以来、初めてがん死亡の低下が認められたのです。米国に遅れること30年、「がん対策基本法」は理念法ではありますが、これから日本も国を挙げて「がん」対策に本気で取り組めば、がん死亡の低下をもたらすことは間違いないと信じています。

それでは「がんによる死亡を防ぐ」ためにはどうしたらよいのでしょう?米国での研究では「がん」の原因で最も重要なものは食べ物で33%、たばこが 30%、遺伝が10%、その他が27%とされています。わが国では肝炎ウイルスも発がんの原因になりますが、がんの原因の割合は米国とそれほど違わないだろうと言われています。

食事の改善だけで発がんのリスクを33%減少させるのは至難の業ですが、禁煙は最も効果的で確実ながん予防です。あとは野菜と果物をたくさん食べて運動して、塩分控えめで節酒してというのが確実です。メタボリック症候群の予防にもなり、一石二鳥です。

ところが、いくら生活習慣の改善に心がけても100%がんを予防することは不可能です。そこで、がんにかかってもがんで死なないように、早期に発見して早期に治療することが大事になります。いわゆる「がん検診」が大切になるわけです。一般にがん検診は利益ばかりと考えられていますが、実は不利益もあります。

がん検診の「利益」は言うまでもなく「がん」による死亡率の減少です。胃がん検診では、一度も検診を受けたことがない男性は毎年検診を受けて人が多いと言われています。子宮がん検診を一度も受けたことのない女性は毎年検診を受けている女性の7~9倍の確率で、子宮がんで死ぬ人が多いと言われています。また、便潜血検査による大腸がん検診では、便潜血が陽性で大腸内視鏡による精密検査が必要と言われたのに精密検査を受けなかった人は、精密検査を受けた人に比べて4~5倍の確率で、大腸がんで死ぬ人が多いと言われています。

一方「不利益」には検査に伴う偶発症のほかに「偽陰性」と「偽陽性」という不利益があります。偽陰性も偽陽性もないにこしたことはありませんが、現実にはいくらかは避けられません。症状のある人は、検診ではなく医療機関を受診すべきでしょう。

結局は「がん」で死なないためには、日ごろより健康に気をつけて良い生活習慣を身につけ、毎年検診を受け、検診で異常なしと言われても症状があれば早めに病院を受診することが大切でしょう。これらを実践することによってかなりの「がん死」を防ぐことが科学的に証明されています。米国対がん協会の会長の言葉を借りれば「がんはあらゆる病気の中で、最も予防可能な病気の1つである」のです。

また、宮城県対がん協会と東北大学公衆衛生学教室との共同研究で行っている「宮城県の生活習慣病に関するコホート調査」によると、「喫煙・大量飲酒・運動不足・肥満または痩せはおのおの単独でもがん・心臓病・脳卒中の死亡率を上昇させるが、すべてそろうと大幅に死亡率が上昇する」ことが分かっています。

今まで述べたことをまとめますと「がんで死なないための科学的根拠に基づいた方法」とは、(1)たばこは吸わない。(2)お酒は1合未満で週2日の休肝日をもうける。(3)野菜・果物をたくさん摂取する。(4)肉類や高脂肪食、塩蔵品は控える。(5)適度な運動をする。(6)カビたものや焦げた食物を食べない。(7)がん検診を受ける。(8)検診を受けて要精査となったら精密検査を受けることです。

 

がんで死なないための科学的根拠に基づいた方法

    1. たばこを吸わない
    2. お酒は1合未満で週2日の休肝日をもうける
    3. 野菜・果物をたくさん摂取する
    4. 肉類や高脂肪食、塩蔵品は控える
    5. 適度な運動をする
    6. カビたものや焦げた食物を食べない
    7. がん検診を受ける
    8. 検診を受けて要精検となったら精密検査を受ける

 

こうすることによって、「がん死は防ぐことができる」ことが科学的に証明されています。わざわざ高価なサプリメントを服用しなくても、「みの様」のテレビ番組を見たあとに慌ててスーパーに買い物に行かなくても、がんによる死亡を防ぐことができるのです。