第423回市民医学講座

IMG_7157 20.JPG東北労災病院糖尿病代謝内科
 部長  赤井 裕輝 先生

とき:平成20年6月19日  午後1時30分
ところ:仙台市医師会館2階ホール

 

 

 

 

メタボリックシンドロームと糖尿病

 “メタボ” が流行語となっていますが、正式にはメタボリックシンドロームといいます。メタボリックとは日本語で代謝の、と訳されます。新陳代謝の代謝で、国語辞典では古いものと新しいものが入れ替わることとなりますが、医学用語としては栄養の出し入れのことです。食べたり飲んだりしたものが体の中に蓄えられたり、燃焼して活動のエネルギーになったりしますが、こうした一連の体内の現象のことです。シンドロームは症候群です。現代人の食べ過ぎ飲み過ぎ運動不足がもたらす内臓脂肪型肥満、これは腸間膜など腹部の内臓に大量の脂肪が蓄積したお腹の出っ張った状態のことですが、その結果、血糖、血圧、中性脂肪が上がりやすくなります。このような体質をメタボリックシンドロームといいます。そんな生活スタイルがそのまま続くと、やがて心筋梗塞、脳硬塞など恐ろしい病気に倒れ、人生を狂わされることになるのです。

メタボリックシンドロームの診断は、内臓脂肪が蓄積していることが前提となります。内臓脂肪の蓄積を正確に診断するには腹部臍高部のCTスキャンによる内臓脂肪面積の測定が必要です。男女ともCT法により100c㎡以上あると内臓脂肪型肥満となります。健診ではCTを使うことはできませんので簡便に内臓脂肪型肥満を確認する方法として、臍高部の腹囲測定が行われます。CT法による100c㎡に相当する腹囲は男性85cm、女性で90cmでした。腹囲がこのサイズ以上であって、かつ中性脂肪高値(またはHDLコレステロール低値)、血圧高値、血糖高値の3項目中2項目以上が該当するときメタボリックシンドロームと診断されます。

メタボリックシンドロームは運動不足と、朝食抜き、麺類などの軽い昼食、遅い時間のアルコールを伴い脂質を多く含む高カロリーの夕食、といった生活スタイルの結果できあがります。対策としては1日3食、3食均等、主食を減らさずにおかず(副食)とのバランスを重視する、遅い時間の夕食は避けアルコールは控えめにする、なるべく歩く、日ごろからジョギング、サイクリング、水泳、山歩きなどのエアロビックなスポーツに親しむなどが有効です。

メタボリックシンドロームは糖尿病を起こしやすくします。平成14年の調査では日本に約740万人の糖尿病の方がいると推定されました。平成9年には690万人でしたから、バブル後の平成不況のさなかにもかかわらず糖尿病の人が5年間で50万人も増加しました。最新の報告によればその後も糖尿病は増え続け、平成18年には糖尿病の強く疑われる人は820万人となっていました。さらに糖尿病の可能性を否定できない人は1,050万人にも達しています。その背景にあるのがメタボリックシンドロームなのです。

糖尿病はそのほとんどの期間、無症状が続きます。ごはんもおいしく、バリバリ仕事もできて何も困らない状態が長く続きます。検査では異常値を指摘されてもご自分は健康そのものと錯覚してしまいます。そのまま様子を見ていても健康を維持できて天寿を全うするのならば、糖尿病は放っておくのが正解ということになりますが、実際には、放って置く人が健康人として人生を全うすることはできません。必ず糖尿病の合併症に襲われます。視力障害、尿毒症、足の壊疽、心筋梗塞、脳硬塞…、どれをとっても恐ろしい病気ですが、それがある日突然のように起こるのです。

対策はまず糖尿病の治療を中断することなく継続することです。治療を先送りすることなく早期に開始するほど治療は容易で、合併症のリスクも軽減します。毎回の通院時のグリコヘモグロビン(HbAlc)が6.5%以下を継続することができれば、身体障害者になる危険性は極めて小さくなります。

担当医の先生が良いお薬を選んでも、情報不足のためにご自分が膵臓のランゲルハンス島(膵島)を大事にする気持ちを持たずに、お砂糖のたっぷり入った飲み物やお菓子、菓子パンなどを沢山口に入れると、仮にカロリーオーバーになっていなくても、膵島は疲弊しやすく、良い血糖コントロールが得られません。栄養ドリンク、スポーツ飲料、乳酸菌飲料、果物入り野菜ジュース、黒酢ドリンクなど健康を考えて飲んでいるのに、実際には膵島にとって大きな負担になるものも多く、そのためにコントロール不良となっている方に実に多くお会いします。コマーシャルなどで健康に良いといっていても、膵島にも良いのかともう一度考えてみて下さい。甘くておいしい、そして体に良いものを知らず知らずのうちに探しています。だから飛びついてしまうのではないでしょうか。しかし残念ながら日本人の膵島は欧米人に比べとても弱々しいのです。だから大事に守ってあげなければなりません。

良い血糖コントロールで日々楽しく健康にお過ごし下さい。